代休と振替休日について・後編
Noppo社労士事務所のWatabeです。
前回は「代休」と「振替休日」の違いについてご説明しました。
後編では実際に代休や振替休日をとる際の注意点についてご説明します!
要注意!翌週以降の「代休」と「振替休日」
休日に労働したものの、その週は繁忙で休みを取ることができそうにない…ということは多々あるかと思います。
しかし、「代休」と「振替休日」は【同一週内】で対応するのが原則です。
では、なぜ同一週内に対応しなければならないのか?についてご説明いたします。
代休
第1週の日曜日(法定休日)に休日労働した後に、業務が落ち着いたので翌週の火曜日を代休にした場合
代休の場合、第1週の日曜日の労働は「休日労働」に該当しますので
「時間単価×135%×8時間」の支払いが必要です。
※第1週は週40時間を超えて労働していますが、日曜日は「休日労働」に該当しているので「時間外労働の時間数」としてはカウントする必要はありません。
代休である第2週の火曜日はノーワーク・ノーペイの原則から賃金が発生しませんので、第1週の日曜日で8時間分の時間単価を支払い、第2週の火曜日で8時間分の時間単価を欠勤控除する=相殺していると同じことになります。
そのため、最終的に支払いが必要なのは第1週の日曜日に働いた休日労働の割増部分のみ(時間単価×35%×8時間)になります。
振替休日
第1週の日曜日(法定休日)に労働することが分かっていても、同一週内は繁忙で休みを振り返ることができず、事前に翌週の火曜日に振り替えた場合
法定休日は事前に振り替えられているので、第1週の日曜日は休日労働には該当しないため「休日労働に対する割増」は必要ありません。しかし、第1週は労働時間が週40時間を超えているので時間外労働に該当します。
ただし、もともと第1週の法定休日と第2週の火曜日と労働日を入れ替えていますので、支払いが必要なのは、時間外労働の割増部分のみ(時間単価×25%×8時間)です。
代休は同一週内でも週をまたいだ場合でも、考え方にあまり変わりはありませんが、振替休日は週をまたいでしまうと、時間外労働に対する割増が発生する可能性がありますので注意が必要です。
特に要注意!!賃金計算期間が異なる「代休」と「振替休日」
特に注意が必要なのは、「賃金計算期間が異なる代休や振替休日を設けてしまった場合」です。
労働基準法で「賃金は所定支払日に確定している賃金を全額支払わなければならない=全額払いの原則」と定められています。
そのため、代休や振替休日は「同一賃金計算期間内」に設ける必要があります。
同一賃金計算期間内に設けないと、どんなことが起きるかというと…
<代休の場合>
労働基準法で定められている全額払いの原則から△月の賃金はその支払日に全額を支払わなければなりません。
そのため、△月第4週日曜日に働いた賃金は△月稼働分の賃金支払日に支払わなければならず、給与計算期間が異なる▲月第1週火曜日の代休で相殺することはできません。
「△月第4週日曜日」の賃金を△月分の賃金支払日に支払ったうえで、「▲月第1週火曜日」の賃金を▲月分の賃金支払日に控除するという処理が必要です。
つまり、事務処理上は
△月第4週日曜日は「時間単価×135%×8時間を支払う日」で
▲月第1週火曜日は「時間単価×8時間分を控除される日」という扱いになります。
<振替休日の場合>
上図は代休の例ですが、この処理方法は「振替休日」だった場合でも同様です。
法定休日の移動自体は賃金計算期間をまたいで行うことができるので、△月第4週の日曜日(法定休日)と▲月第1週の火曜日(労働日)を事前にトレードすることが可能です。
ただこの場合も、全額払いの原則から賃金計算期間をまたいだ相殺はできません。
事前に振り替えることで、△月第4週の日曜日は労働日になるため休日労働には該当しませんが、週40時間を超えた労働が発生していますので、△月分の賃金支払日には「週40時間越えの労働に対して時間単価×125%×8時間を支払う」ことになります。
また、▲月第1週の火曜日は法定休日ではあるものの、△月分の賃金支払日に第4週日曜日の8時間の労働に対する賃金を支払っているので、事務処理上は▲月分の賃金支払日に「時間単価×8時間分を控除」しなければなりません。
前述の「週をまたいだ代休」や「週をまたいだ振替休日」の場合は、割増部分の支払いが必要であっても8時間分の賃金については同一賃金計算期間内のため、結果的に相殺が可能でした。
しかし、賃金計算期間をまたぐ場合は全額払いの法則から、8時間分の賃金を相殺することが出来ないので「8時間分の賃金を含め休日に働いた賃金をいったん支払い、次の賃金計算間で休日となった日の8時間分の賃金を控除する」という処理が必要になります。
運用上、賃金計算期間をまたいだ代休や振替休日が発生した場合でも、8時間分の賃金を相殺している会社も少なくないのではないかと想像できますが、本来はこのような対応をする必要があります。気付かぬうちに全額払いの原則に違反しないよう、注意が必要です。
最後に~Watabeの経験から~
Watabeの前職は、就業規則で土日が休日(法定休日・起算日の特定なし)と規定されていた会社でしたが、持ち回りで土曜日に出社しなければならない「土曜当番」と呼ばれる日がありました。
10人くらいで当番を回していたので、2~3か月に1回くらいの頻度で自分の番が回ってくるのですが、事前に休日の振り替えをすることはなく、働いた後に代休を取る、というルールで運用されていました。
土曜当番の週は週40時間を超えて働いているので、法律上は「代休」を取ったとしても時間外労働の割増分が支給されるはずですが、社内では「振替休日」と同じように「休日を入れ替える日」という扱いがされていたため、当番の週の割増分が払われた記憶はありません(そもそも業務に追われているので代休を取れることのほうが少なく、さらに「代休を取っていいと言っているのに取らない人が悪い」という扱い=つまり土曜当番はサービス残業状態で、代休どころか土曜当番の賃金も支給されないという、かなりブラックな感じです笑)。
前職のブラックな面はさておき、当時は私自身も「代休」と「振替休日」の違いを全く理解していませんでしたし、おそらく一緒に当番を回していた同僚たちも同じだったと思います。そのため、休みをとれないことについては陰で文句を言っていましたが、代休が取れた場合でも時間外労働分の割増が不足していることに気づいていた人はいなかったと思います。
Watabeの前職は極端な例というか、ブラックすぎて代休と振替休日の違いうんぬん以前の問題ですが、実際に「代休」と「振替休日」の違いを明確にしないまま運用している会社は少なくないのではないかと思います。
今回お伝えした通り、「代休」と「振替休日」には大きな違いがあり、その違いを理解していないと意図せずに、時間外や休日の割増が未払いになってしまう可能性がありますので注意が必要です。
運用上、どうしても代休や振替休日が同一週内に取れない、賃金計算期間をまたいでしまう、ということはあり得ることだと思います。しかし、労働者の健康面からも代休や振替休日は、休日に働いた日から出来るだけ間をあけずに取得できるような管理が必要です。
また、知識として知っていてどうしてもその運用しかできないのか、知らずに運用してしまっているのかでは大きな違いがあると思いますので、少しでも適法な運用に近づけるためにも今回のご説明がお役に立てば幸いです。
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