介護事業の種類ごとに異なる労働時間の設計|労務トラブルを防ぐために押さえておくべき視点

介護事業はサービスの形態によって、職員の働き方も大きく異なります。だからこそ、適切な労働時間制度の選択と運用が欠かせません。この記事では、主要な介護サービスごとに、労働時間制度の活用例や注意点を整理しました。

訪問介護の場合

【活用される労働時間制度】
・1か月単位の変形労働時間制

訪問介護では、早朝や夜間のケアが求められ、長時間拘束になりがちです。この状態を放置すると、サービス残業が常態化し、是正勧告や労使トラブルのリスクが高まります。

たとえば、勤務時間を9時~18時に固定し、完全週休2日制を導入している事業所もあります。こうした働き方を実現するには、利用者が地域に集中していること、移動手当をきちんと支払いながら無駄な移動を避ける工夫が必要です。そして、何より経営者の方針が明確であることが前提になります。

移動距離を抑えることで、ヘルパーの体力的負担が減り、満足度の高いケアにつながります。さらに、職員の定着にも効果があります。一方で、紹介を断る方針が一部のケアマネとの関係性に影響する可能性があるため、理由を丁寧に説明し、理解を得る努力が求められます。

今後の制度変更に備え、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」への参入を見据えた、土日営業や早朝・夜間のサービス提供も検討の余地があります。

居宅介護支援(ケアマネ)の場合

【活用される労働時間制度】
・1か月単位の変形労働時間制
・フレックスタイム制

ケアマネは専門性と裁量が求められる職種であり、フレックスタイム制の導入に適しています。

たとえば、「今日は5時間だけ働く」「明日は10時間働く」といった働き方が実際に行われているなら、制度として明文化することで、トラブル予防につながります。

ただし、毎日の朝礼出席を義務づけるなど、自由な時間管理を阻害する運用をしていると、フレックスタイム制の趣旨に反するため注意が必要です。

注意点

フレックスタイム制は、職員にとって働きやすい柔軟な制度であり、喜ばれる可能性があります。ただし、この制度がうまく機能するのは、「時間を自分で管理できる力」が備わっていることが前提です。つまり、自己管理能力や責任感が成熟している方に限定して運用することが重要です。

特にケアマネジャーの場合、業務の性質上どうしても事業所にいる時間が短くなりがちです。しかしそれでも、チームとしての時間を共有し、今どんな課題に直面しているのか、利用者やご家族にどのように対応しているのかを、上司が把握しておくことは欠かせません。

この点が見落とされると、サービスの質を維持・向上させることが難しくなります。制度の柔軟さだけに目を向けず、「信頼と報連相」が土台にあることを念頭に置いてご活用ください。

通所介護(デイサービス)の場合

【活用される労働時間制度】
・1か月単位の変形労働時間制

デイサービスは週休2日制が一般的ですが、土日祝日営業のニーズが高まりつつあり、実施する事業所が増えています。

また、法改正によりサービス提供時間が延びているため、1日8時間の法定労働時間内に収めるのが難しくなるケースもあります。そのような場合には、送迎体制の見直しなどで対応できないかを検討したうえで、変形労働時間制の導入を検討します。

創業段階で日祝営業の方針を明確にし、職員に周知しておくと、後の運営変更もスムーズになります。

グループホーム・特別養護老人ホームの場合

【活用される労働時間制度】
・1か月単位の変形労働時間制
・1年単位の変形労働時間制

24時間365日稼働する施設では、夜勤や宿直が不可欠です。現場では1か月単位の変形労働時間制が多く活用されています。事務部門に関しては、比較的勤務日が特定しやすいため、1年単位の変形労働時間制も選択肢となります。

また、残業が常態化している場合には、固定残業代制度を検討するのも一つの方法です。ただし、制度設計を誤るとトラブルの火種にもなるため、専門家の助言のもとで導入を進める必要があります。

宿直勤務については、「常態としてほとんど労働の必要がないこと」が条件です。たとえば、毎晩のおむつ交換などが常態化している場合は、宿直として認められません。この点は昭和49年7月26日基発第387号などの通達で明確に示されています。

おわりに

介護事業では、サービスの特性に応じた労働時間の設計が、職員の定着や事業の安定につながります。形だけ制度を導入しても、運用が伴っていなければ意味がありません。

いま一度、現場の実態に目を向けたうえで、制度の導入や見直しを進めていきましょう。