「採る」より難しい「見送る」という経営判断
介護福祉事業をはじめようとすると、最初に立ちはだかるのが「人員基準」です。
この業界は、国が制度として設計した「ビジネスの型」の上に成り立っています。
つまり、国が定める基準(資格要件など)を満たす人材を採用できなければ、事業そのものがスタートできません。
どれだけ強い思いがあっても、どれだけ優秀な人であっても、基準を満たさなければ土俵にすら立てない。
しかもこの「基準」が、事業の長期的な継続を難しくする最大の要因にもなります。
なぜなら、
基準を満たす人材が採用できない限り、いつまで経っても事業を始められないからです。
◆応募条件をつければつけるほど、母集団は減る
人材を確保しようとすれば、当然ながら応募条件を定めます。
しかし、応募条件を厳しくすればするほど応募者は減少します。
母集団が減れば、採用の選択肢はなくなり、「応募があった人を面接して採用する」という状況に陥ります。
私がこれまで見てきた限り、このパターンがうまくいったケースは、ほぼありません。
結果として、組織は次のような状態に陥ります。
・問題行動を起こす社員への途切れない対応
・入退社の繰り返しによる先輩社員の徒労感
・人数不足による現場の疲弊
・管理職によるハラスメント
・最悪の場合、虐待など重大事故の発生リスク
一度この負のスパイラルに入ると、経営者も組織も消耗戦です。
◆「ご縁」という甘い罠
そんな状況のなか、もし経験・資格ともに申し分のない人が応募してきたら…
経営者はどうするでしょうか。
おそらく99%の会社が、その応募を「ご縁」だと捉えてしまいます。
そして、面接に臨む時点で、すでに「採用する気」になっているのです。
この状態になると、経営者は冷静な判断ができません。
いわば「恋は盲目」状態。相手の欠点もアバタもエクボになる。
誰かが「ちょっと気になる」と懸念を示しても、「いや、大丈夫だ」と反論したり、
「次にこのレベルの人が来るのか?」と焦って採用に踏み切る。
その結果が、どうなるか。
「・・・」
これは決して他人事ではなく、現場で何度も繰り返されている現実です。
◆面接では、見送る判断ができない
条件にぴったり合う人であっても、そうでなくても、勘と感覚、そして応募者の話す内容や書面上の情報といった
「アウトプット」だけで採用を判断している限り、この構図は変わりません。
なぜなら、面接だけでは応募者の「行動情報」を十分に得ることができず、判断材料が圧倒的に不足するからです。
つまり、「見送るための根拠」がそもそも集まらない。だから、見送れない。
それが、面接の限界です。
合理的な判断ができなければ、組織の健全化は進みません。
◆「採る覚悟」と同じくらい、「見送る覚悟」を持てるか
組織を健全化したい、組織の質的生産性を高めたい、自立した組織を構築したいという経営者には、
「合理的な判断力」が求められています。
採る勇気だけでなく、「見送る覚悟」を持てるか。
そこが、組織の未来を左右する分岐点です。
