交通事故が労災だったら?~事故発生の一報からの流れ①~

Noppo社労士事務所のWatabeです。

自社の労働者から「交通事故にあった」という一報を受けた時、どのように対応したらいいか思い浮かびますか?

自動車を運転している時だけでなく、自転車に乗っている時、歩いている時、誰かの車に同乗している時など、いつどこで交通事故にあうかは予想が立てられません。
ある日突然、予期せぬ時に起きるのが交通事故です。

業務中や通勤途中に労働者が交通事故にあって会社に一報が届いた時、交通事故の当人が動揺していたとしても、一報を受けた側は落ち着いて情報を回収しなければなりません。

今回は、「交通事故が労災だった時の流れ」について3回にわたってご説明いたします。
※先ほど述べたように交通事故には様々なケースがあります。今回は「車同士の交通事故」が起きた時のご説明とさせていただきます。

労働者から「交通事故に遭いました」と報告を受けたら…

まずは深呼吸!

交通事故の当事者である労働者の気が動転していることは間違いありません。
そのため「落ち着く」ことを促しましょう。

そして、当事者である労働者はもちろん一報を受けた事務担当者の方も落ち着かないことには対処方法について十分に考えることができません。

双方とも一旦深呼吸をして落ち着くことが大切です。

その交通事故が労災に該当しているのか確認!

業務中や通勤途中に起きた交通事故がすべて労災に該当するとは限りません。
労働者の交通事故が労災に該当するのか確認が必要です。

業務災害
業務災害と認められるには「業務遂行性」「業務起因性」が重要です。
交通事故の場合「業務中に起きた事故なのか?」を確かめなければなりません。

たとえば休憩時間中の交通事故や、就業時間中に私用で郵便局へ行ったなど、私的行為中の交通事故の場合はたとえ所定労働時間内の交通事故であっても、労災には認定されませんので注意が必要です。

 

出張中に交通事故が起きたら…
使用者の命により出張先へ赴き、その地で業務をし、出張先から戻ってくるまでが全て一連の「業務」という扱いになりますので、出張中の交通事故は「業務災害」となります。
しかし、出張先での被災であっても「時間が空いたので観光をしていた」など私的な行為の最中に起きた事故は業務起因性がありませんので労災には認定されません。

 

通勤災害
通勤災害と認められるには下記3つのパターンである必要があります。
(1)住居と就業の場所との間の往復中の交通事故
(2)就業の場所から他の就業の場所への移動中の交通事故
(3)住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動中の交通事故

※たとえば単身赴任で自宅以外に居住している家がある労働者が終業後に
①会社→➁赴任先の家→➂家族が住む自宅 という移動をする場合、➁→➂における住居間の移動中の交通事故についても通勤災害という扱いになります。

通勤は合理的な経路および方法で行う必要があるので、通勤経路を逸脱した場合や、通勤を中断した場合は、逸脱・中断の間およびその後の移動については「通勤」とは認められません

しかし、出勤時に子供を保育園に預けたり、帰宅途中に歯医者で治療するなど、通勤時には日常生活に密接した行為が行われることも多いです。
そのため、日常生活上必要な行為であってやむを得ない理由により行うための必要最小限の間であれば通勤経路への復帰後は通勤として認められる場合があります

 

たとえば、通勤経路に近いスーパーで夕飯の食材を購入するなど「日常生活上必要な行為」であってスーパーでの滞在時間が必要最小限であれば、スーパーの駐車場での事故は「逸脱中」なので労災にはなりませんが、買い物を終え通勤経路に戻ってからの交通事故は労災と認められる可能性があります。

所定労働時間内に「交通事故にあった」と報告を受けてもよくよく聞いたら実は休憩中に発生した交通事故であったり、「帰宅途中に交通事故にあった」と報告を受けても実は通勤経路を外れてドライブ中の交通事故であった場合などは労災の認定を受けることができませんので、「いつ」「何をしている時」の事故なのか確認が必要です!

交通事故の詳細を確認!

冒頭で述べた通り、一言で「交通事故」といっても様々な状況が考えられますので、交通事故の詳細を確認してください。

①加入している保険について
自家用車で通勤中であれば、労働者が加入している保険(自賠責保険・任意保険)の確認を、業務中で社用車を使用中の事故であれば会社が加入している保険(自賠責保険・任意保険)の補償内容の確認をしてください。

いずれの場合も加入している保険会社に事故の一報を入れましょう
※相手方のケガや車の修理などの補償は労働者(または会社)が加入する保険がカバーすることになります。

②相手がいるのか?
相手がいる交通事故の場合は、相手の方が保険に加入しているのか?加入しているのであればどんな保険に加入しているのか?について確認が必要です。

労働者には必ず相手の連絡先・保険会社(自賠責保険・任意保険)の確認をするよう指示し、また事故の相手にも自身が加入している保険会社に連絡してもらうよう依頼してください。

事故の相手が保険会社に連絡を入れてくれた後は、通常であれば相手方の保険会社から労働者や会社の担当者宛に連絡がきて、その後の流れなどを説明されるかと思います。
その場で確認できなかった場合でも、相手の情報や加入している保険会社は「交通事故証明書」に記載されますので事故発生後は必ず警察を呼びましょう。 

③どんな状況で起きた事故なのか
いつ・どこで・何をしている時に・同乗者の有無・ケガの具合などできるだけ詳しく状況を確認してください。
情報が多い方がその後の対応を判断しやすくなります。事故直後で動転している状況下だとは思いますが、少しでも多く情報を回収してください。
※事故相手の負傷状況についても分かる範囲で良いので確認しておきましょう。

また「警察に連絡をしているかどうか」の確認も必要です。
前述の「交通事故証明書」の発行にも警察へ届出が必要という事もありますが、そもそも接触事故の場合は事故の当事者双方に警察を呼ぶ義務があります
相手から示談の申し出があった場合や、軽い接触事故だったからと甘く見て警察を呼ばずに解決してしまった場合、保険会社から十分な補償が受けられないなど後々大きなトラブルに発展する可能性が十分にあります。どんな状況であっても「警察を呼ぶ」ことを徹底して下さい。

④過失割合
車同士の交通事故の場合、相手の過失が10割になる主なケースは下記3つになります。

停車している車に追突してきた

信号待ちで停車中に後ろから追突された場合
路肩や駐車場に停車している時に追突された場合 など

センターラインをはみ出して走行する対向車と衝突した

直進で走行中に対向車がセンターラインをはみ出したことにより衝突した場合 など

信号無視の車との衝突

青信号で交差点を直進中、赤信号で交差点に進入してきた車と衝突した場合
赤信号(進行方向の青矢印)で左折中、赤信号で交差点に進入してきた車と衝突した場合 など

相手が10割の過失を負うのは主に上記で挙げたケースとなりますが、言い換えればこのようなケース以外は労働者側にも過失があるということを意味します。

そのため労働者から「相手の車に追突された」と報告を受けても、労働者が
「信号待ちで止まっているところに追突されたのか」「走行中に追突されたのか」で過失割合は変わりますので、どんな状況での事故だったのか詳しく確認する必要があります。

最終的な過失割合は示談交渉で事故当事者同士の話し合いにより決まるので、事故当初に確定するものではありません。しかし「どんな事故状況だったのか」を把握することで、労働者側の過失割合がどのくらいになるのか判断する材料になるかと思います。

労働者側の過失割合がどの程度あるかによって、事故後の対応が変わります。発生時は本人の感覚で良いので「どのくらい自分に過失がありそうか」をご確認ください

請求先を決める

労働者の交通事故が労災に該当していて、交通事故によりケガをしている場合、一番最初に判断が必要になるのは「労働者の治療費をどの保険に請求するか?」です。

請求先は多く分けて2つあります。

(1)労災保険
病院で治療した当日は10割負担になりますが、後日申請書類を提出することによって治療費が返還されます。

通院が続く場合の治療費は労災保険から補償されるため、被災した労働者は治療費の支払いをすることなく通院することができます。

※厳密にいえば、労働者の治療費は労災保険のみが補償をするのではなく、過失割合によって事故の相手に求償が行われます。
また事故の相手も業務中や通勤中だった場合は、双方が労災(第三者行為災害)ということになり、相手が労災保険から補償を受けるのであれば、相手の治療費は労働者に対して過失割合に応じた求償が行われることになります。
ここでは「労働者は自身の治療費については負担がない」ことをお伝えしたいので「求償」についての詳細は割愛させて頂きます。

(2)相手が加入している自賠責保険(任意保険
病院で治療した当日は10割負担で支払い、治癒または症状が固定し示談成立後に保険金が支払われることになります。

本来、保険金は示談交渉し損害賠償額が確定するまで支払われませんので、示談成立までの治療費は受診した労働者が負担する必要があります。
しかし、示談交渉が長引く場合や、裁判に発展した場合はケガをした被害者に対して保険金が支払われるまでに時間がかかりますので、任意保険の会社が直接病院へ治療費を支払うサービスがあります(先に支払われている治療費は最終的に支払われる賠償金額から相殺されます)。

このサービスを利用すれば本人は治療費の負担をすることなく通院することが可能です。
※ただし、事故の相手が自賠責保険しか加入していない・または被災労働者の過失割合が高いケース(一般的に40~50%以上の場合はサービスの利用を断られる可能性が高いと言われています)ではこの制度を使用することができませんので注意が必要です。

では(1)(2)のどちらを選択したらいいの?という疑問が生まれたと思います。
そこで重要になるのが「事故相手が加入している保険」と「労働者の過失割合」です。

次回は、ケースによって異なる請求先の選択 についてご説明いたします。

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