外国人を採用する前に知っておきたい基礎知識と実務ポイント 後編

Noppo社労士事務所のWatabeです。

前回は、外国人を雇い入れる前の注意点についてご説明しました。

今回は、雇用することが決まった後、会社で必要なアレコレについて解説します!

雇用することが決まったら

  • 心構え

外国人を雇用する際、前提として日本人には「当たり前」のことが外国人にとっては「当たり前ではない」ということを雇用する側が改めて認識する必要があります。
ここまで説明しないとわかってもらえないの?と思うことでも、丁寧に、粘り強く説明し、必ず納得してもらってください。「なんとなく伝わっているし大丈夫だろう」という油断が、後々の大きなトラブルを招きます

  • 契約書

外国人は日本人よりも「契約書主義」と言われていますが、実際に契約書に書かれていないことは自分が対応する必要はないと考えている人もいました。しかし、単純作業の仕事でない限り必ず付帯業務が出てくるものです。特に中小企業では複数の業務を兼務する必要があることも多いです。メインの仕事だけでなく、付帯する業務があり、協力しながら仕事をしているということを納得してもらうことで、互いに気持ちよく仕事ができます。

※契約書に書かれていないことを何でもやらせて良い、という事ではありません。細かく記載できるのであれば記載した方が後々のトラブルが無いのは言うまでもありませんが、すべてを書き連ねるのは難しいような雑務や、突発的に起きるような業務があるのであれば事前に口頭で説明しておきましょう。

 

  • 誓約書

経歴に虚偽がないかの誓約書にサインをしてもらうことをお勧めします。雇用する際に聞いていた経歴に虚偽があり、在留資格の更新が不許可になるということもあり得ます。そうなったら日本に在留することができませんので、当然解雇となってしまうという事を認識しておいてもらいましょう。

※不許可になったからといって、すぐに解雇をして良いということではありません。
もし、当該外国人の経歴と合致するような職務が社内にある場合は、配置転換をするなどして更新の再申請等の努力をすることは雇用する立場としての義務です。 

  • 身元保証人

金銭的な担保としての身元保証人ではなく、「緊急連絡先」として本人と会社の間をつなぐ役割と考えてください。日本人の場合は、配偶者や親、親戚などに頼むのが一般的かと思いますが、外国人の場合は日本に親族がいないということも多いので日本で親しくしている友人も選択肢に入れなければならない可能性も高いです。

余談ですがWatabeは前職で外国人の同僚が増えたことから、そのつながりもあって外国人の友達や知り合いが多くいるため、以前は数人の外国人の身元保証人になっていました。当時、「身元保証人は日本人」と決まっている企業もあり私に白羽の矢が立ったのですが、みんな元気で品行方正に働いていたので今まで一度も企業から電話が来たことはありません。現在は日本を出国して他の国で暮らしている子もいるので、身元保証人になっている友達はあと1名。このまま何事もなく私の役目が終わるときが来ると良いなと思っています笑

  • 給与から控除される項目の説明

最初の給与で額面と手取りがどうしてこんなに違うのかと、驚く外国人が多い印象があります。健康保険は理解できても、将来は日本にいるのかわからないのになぜ厚生年金を支払わなければいけないのか、と不満を持つ方も少なくありません。

厚生年金については、一定の要件を満たせば母国へ帰国した後に支払った年金の一部を返還する制度(脱退一時金)や、日本と年金通算の協定を締結している国(アメリカ、カナダ、インド、フィリピン等23か国)であれば、日本での加入期間を自国の加入期間と通算することもできます(脱退一時金を貰った場合は通算不可)。雇用契約時に、給与から控除する項目の説明や年金についての説明をすることで、契約書に記載の金額と手取り額に差があることへの不満を多少は減らすことができるかもしれません。

ここまでお伝えしたことは、外国人の採用に限ったことではなく、日本人を雇入れる際にも同じようなことが言えます。
労働者とトラブルに発展するケースは単に「その時」に起きたことが原因ではなく、少しずつ積み重なった不満が原因で、特に退職時に大きな問題となって現れることが多いです。
近年はインターネットですぐに検索できる時代になっているのでトラブルが大きくなると、労働基準監督署に駆け込まれたり、弁護士を立てて訴訟問題になったり、ユニオンから団体交渉が来たり、、、という実例がありますので「雇い入れるとき」にしっかりとした礎を作っておくことが重要です。

入社時の手続について

雇入れた後の、雇用保険・社会保険の手続きについてご説明いたします。基本的には日本人と同じですが、プラスアルファで必要な情報や手続きがありますのでご留意ください。

  • 雇用保険

○雇用保険加入の場合

被保険者資格取得届に氏名(ローマ字)、在留資格、在留期間、国籍などを記入する欄があります

 

○雇用保険不加入の場合

「外国人雇用状況申出書」を提出します。記入内容は、上記とほぼ同じです。

 

いずれも在留カードを確認しながら必要項目を埋めてください。

※前回、「永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者」の在留資格を持つ外国人は就労制限がないとお伝えしておりますが、この4種の在留資格であってもハローワークへの届出は必要ですのでご留意ください。

 

  • 社会保険


    基礎年金番号とマイナンバーが結びついているかどうかを確認してください。

    〇結びついている場合→通常の手続きと同じです。
    〇結びついていない場合→ローマ字氏名届の提出が必要です。

 ☆要チェック☆

マイナンバーと基礎年金番号が結びついているかどうかの確認をする際、【年金事務所で登録されている氏名フリガナ表記】についても併せて確認しておくことをおすすめします。

なぜかというと、外国人が来日した際に住居を構える自治体で住民登録(住民票の作成)をするのですが、窓口担当者が口頭で確認した氏名フリガナを登録する、という手順で登録されることがあるため、誤って聞き取られてしまった場合に外国人が「自分の氏名フリガナと思っている表記」と「住民登録されているフリガナ表記」が異なるという現象が多々起きてしまうそうです。

在留カード記載の氏名にはフリガナがありませんので、社保取得の手続き担当者は入社した外国人が「自分の氏名フリガナと思っている表記」を正として手続きを進めることになります。

一方、年金事務所では住基ネットから情報を吸い上げて登録を行うため、住民登録の時点で誤ったフリガナを登録されてしまった場合は年金事務所でも間違えたままのフリガナで登録されてしまっている可能性があり、入社後の社会保険取得で申請した書類(本人が思う「氏名フリガナ」)と年金事務所の登録フリガナが異なるため、「フリガナが違う」ということで返戻になってしまう、という問題が起こり得ます。

ただ、残念ながら年金事務所は個人情報であることを理由に登録されているフリガナ表記をむこうから伝えてくれることは絶対にありません。※本来であれば本人が窓口に出向いて確認が必要な事項です。
ではどうするのか?というと…『「〇〇 〇〇〇」という名前なのですが、登録は正しいですか?』など、相手がYES ・NOで答えられるような質問を、イチかバチかで試しています。もちろん、それでも答えてもらえない場合もありますし、登録されているフリガナが違う事は分かっても、どこが違っているのかまでは分からないこともありますので、その場合は入社する方に直接確認してもらうしかありません…

万が一、本当に住民登録のフリガナが誤っている場合、ご本人が自治体の窓口で訂正の手続きをしなければなりません。訂正が終わって、住基ネットの情報が年金事務所に吸い上げられて、ようやく社保の取得手続きが先に進む、ということになりますので保険証の発行までにかなりの時間を要することになります。

可能であれば、入社前にマイナンバーだけでも入手しあらかじめ年金事務所に確認をとっておくと取得手続きがスムーズに進むと思います。

入社した後は

基本的に、「在留期間の更新」や「在留資格の変更」は申請人本人が行いますので、会社は在職を証明する書類などを作成しますが、手続等は必要ありません。

しかし、前回お伝えしたように在留資格と違う職務に就かせることや、在留期間を超えて在留することは本人だけでなく企業側も罰金や懲役の罪に問われる可能性もあります。本人に任せていたから知らなかった、では済まない問題だと強く認識して欲しいです。

「どんな」在留資格を保有していて、「いつまで」日本に在留できるのか、という管理をするのは外国人を雇う企業として、抑えておくべき事項と言えます。また、その管理を怠ったが故に、雇用してから数年が経ち、やっと戦力になった従業員が強制退去という最悪の可能性も十分にあることを念頭に置く必要があります。

最後に

私は、前職で働くまで外国人と接する機会が少なかったわけではないのですが、そこまで密接に関わることもなかったので苦手意識はないものの、どこかで「自分とは違う」という気持ちがあったことは否めません。

実際に親しくなってみると、育ってきた環境や文化、伝統が違うのは事実で、日本で生まれ育った私にとっては当たり前のことが分かってもらえなかったり、言葉の問題や表現の仕方から行き違いがあることも少なくはありませんでした。それでも双方が「伝えたい」と強く思えば必ず伝わると実体験で学んでいます。

「外国人だから自分とは違う」という色眼鏡で見続けてしまうと、その人の本質や言いたいことを見逃してしまう可能性もあります。「国籍が違うことはその人の特徴の一つだ」と考えられるような気持ちの広さをお互いに持つことが良好な関係性を作る鍵になると思います。また、彼らを特別扱いする必要はありませんが、「母国ではない場所で、母国語ではない言葉でコミュニケーションをとる」ことの大変さを加味することも、柔軟な関係性を保つうえで必要なポイントだと考えています。

これから間違いなく起こる日本の深刻な労働力不足問題。
AIの発展が目覚ましいとは言え、マンパワーが必要不可欠な業種も数多くあります。徐々に増えている外国人の受け入れですが、今後はより一層受け入れに対する緩和が進んでいくことも考えられます。海外からの労働力に「選んでもらえる国」であるために、快く受け入れる気持ちや体制を整えることは日本人が共通の意識として持つべき課題ではないかと思います。

 

 

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