傷病手当金の変更点【2023年】 と 同月内に複数の医療機関を受診した場合の高額療養費について

Noppo社労士事務所のWatabeです。

実は私、2022年に私傷病で長期間休職していました。

Noppoで働き始めてから「傷病手当金」や「限度額適用認定」「高額療養費」の申請は何度も対応してきましたが、まさか自分の申請をすることになるとは思ってもみませんでした。

自分が受給する立場になってみて感じたこともあったので、今回は受給者の視点も交えてご説明したいと思います。

傷病手当金の変更点について

Noppo社労士事務所の別のウェブサイト(https://www.sr-noppo.com/)で傷病手当金について記事を掲載したことがあるのですが、2023年1月より迅速に審査を行い被保険者に受給が素早く行われるよう、申請書類の様式が変更されたことで掲載当時に紹介した点と大きく変わった部分があります。

傷病手当金申請に関する基本情報については以前ご紹介した記事をご確認頂き、今回は制度や書式の変更点をご説明いたします。
※以前の記事を確認する際は下記をご参照くださいませ。

人事労務担当者に知っておいてもらいたい傷病手当金の基礎知識
https://www.sr-noppo.com/16371177060961

 

申請できるタイミングが変わりました

以前は、賃金計算期間の途中で休職が終了した場合、賃金締切日を待ちその期間の賃金が確定してから申請をする必要がありました。しかし、今は【休職期間中の出勤していない日に賃金が発生していないこと】を事業主が証明すれば賃金締切日を待たずに申請することができるようになりました。

例:末締め翌月25日支払の会社で8月1日~8月10日まで休職した場合
以前は事業主が賃金締切日(8月31日)以降に賃金の証明を行う必要があったので、賃金締切日以降でないと申請することができませんでしたが、現在は申請期間経過後(8月11日)に事業主が賃金の証明をすることができるようになりました。そのため、休職期間を過ぎればすぐに申請することが可能です。

事業主記入用ページが大幅に変更されました

傷病手当金支給申請書3枚目【事業主記入用】のページは大幅に変更がありました。
以前は休職期間を含む賃金計算期間(賃金の締日ごと)に【欠勤控除の額や計算方法】について証明する必要がありましたが、現在は【休職期間の出勤していない日に対して支払われた賃金があるかどうか】について証明します。

・勤務状況の欄について
旧様式では賃金計算期間中のすべての日について「公休・欠勤・有給」のどれに該当するか記載しなければならなかったのですが、様式変更後は【休職期間中に出勤した日(有給休暇取得日は記載の必要なし)】を記入することになったため、休職期間中に出勤日がなければ休職した「年」「月」以外は空欄で申請が可能です。

・支給された賃金について
旧様式では【休職期間を含む賃金計算期間について】証明する必要があり、賃金を構成する単価や休職した日に対して欠勤控除されているかどうかについて記載が必要でした。新様式に変わり【休職期間中の出勤していない日について】のみ証明すれば良くなったので、賃金が支払われていない場合は記載する箇所がとても少なく、担当者の負担が大きく軽減されたと思います。
※待期期間中に年次有給休暇を取得した場合や交通費を複数ヵ月分まとめて支給している場合は【休職期間中に支給された賃金】として扱われますので記入が必要です。
 

出典:全国健康保険協会 傷病手当金支給申請書
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/honbu/g2/cat230/kenkouhokenkyuufu/k_shoute2304.pdf

 

受取代理人欄が削除されました

休職中であっても社会保険料の免除はありませんので、給与の支払いがない月も従業員から保険料を徴収しなければなりません。
以前は会社を受取代理人とし、法人口座を給付の受取口座として指定することができたので、休職が長期にわたった場合は給付金をいったん会社が受け取り、そこから社会保険料の従業員負担分などを差し引いた金額を休職中の従業員の口座へ振り込む、という対応ができました。
現在は、給付金の受取口座は被保険者本人名義の口座しか指定することができませんので、休職中の従業員から毎月会社の口座に社会保険料の従業員負担分を振り込んでもらうなどの対応が必要です。

突然休職を余儀なくされた場合は別ですが、前もって休職が分かっている場合は事前に労使間で社会保険料等の徴収方法を取り決めておくとスムーズです。

医療費が高額になった時に利用できる制度について

 窓口での支払いが高額な負担となった場合、支払った後に協会けんぽに申請することで決められた自己負担限度額を超えた額が払い戻される「高額療養費制度」がありますが、一時的であるとはいえ支払いが大きな負担となるため、Noppoでは入院や手術が前もって分かっている時や入院したというご一報があった時はまず「限度額適用認定証」の申請を勧めています。限度額適用認定証は支払い時に保険証と併せて提示すれば窓口での支払いが自己負担限度額までになるからです。


大前提として…自己負担限度額とは?

自己負担限度額は下記表のように被保険者の所得区分(70歳以上については別表)によって分類されています。
※今回は70歳未満の方についてご説明致します。

出典:全国健康保険協会 高額療養費
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/honbu/g2/cat230/kenkouhokenkyuufu/k_shoute2304.pdf

 


例えば所得区分ウの人の総医療費が100万円(3割自己負担なので窓口での支払いは30万円)だった場合

80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円が自己負担限度額となります。

・高額療養費で申請する場合
自己負担額の300,000円を支払い、後日高額療養費を申請することで自己負担限度額を超えた分の212,570円が払い戻されることになります。

出典:全国健康保険協会 高額療養費
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/honbu/g2/cat230/kenkouhokenkyuufu/k_shoute2304.pdf

・限度額適用認定証を発行していた場合
窓口での支払いは自己負担限度額の87,430円となります。

高額療養費を申請しても、事前に限度額適用認定証の申請をしても、本人の支払いが自己負担限度額(87,430円)までであることに変わりはありませんが、高額療養費で申請する場合は後から払い戻されるとは言え一時的に自己負担額(300,000円)を支払わなければなりませんので、本人にとっては大きな負担であることは間違いありません。
実際に限度額が適用されるほどの医療費がかかるかどうかは分からなくても、「入院」や「手術」など医療費が高額になるかもしれない…という可能性が発生したらすぐに限度額適用認定証を申請しておくと安心ですのでおススメです!

高額療養費の対象となる自己負担額とは?

医療機関の窓口で支払った自己負担額(3割負担)の金額を下記の項目ごとに区分し、1つの区分で21,000円以上のものが高額療養費の対象となります。

・受診月ごと(1日~月末の間)
・受診者ごと
・医療機関ごと 
※同じ医療機関であっても医科入院、医科外来+調剤、歯科外来で分けて計算
対象は保険診療分のみで差額ベッド代等の保険外負担額や食事負担額などを除いた金額が対象です。

1区分で21,000円未満の場合は高額療養費の対象なりません。
また、次の「同月内に複数の医療機関を受診した場合の高額療養費について」でご説明しますが、同月内に21,000円以上の区分が複数ある場合、合算して高額療養費の申請をできる場合があります。

こちらについては、分かりづらい部分もありますので事例をもとにご説明致します。

同月内に複数の医療機関を受診した場合の高額療養費について

私が休職していたのは6か月間でしたが、最初の4か月間は入院していました。
救急で入院した病院(A病院)からリハビリ専門病院(B病院)へ月の途中で転院したので同月内に2つの医療機関に入院することになりました。
前述のとおり「医療機関ごと」で高額療養費の対象になるかどうかを判断しますので、A病院とB病院の双方で限度額適用認定証を提示し、それぞれ自己負担限度額までの支払いをしたのですが2つの病院に支払いをしていますので結局その月は自己負担限度額の2倍(+食事代などの保険外負担額)を支払わなければなりませんでした。

自己負担限度額以上を支払わなければいけないこともあるの?と思った方もいるかと思います。


そうなんです。私のように同じ月に複数の医療機関にかかり、それぞれ医療費が自己負担限度額を超えた場合や、自己負担限度額まで行かないにしても区分が異なる医療費が複数ある場合、自己負担限度額を超えて支払いが必要になることがあります。

ただし、高額療養費の対象となる21,000円以上を自己負担した医療機関が複数(限度額適用認定証を提示して自己負担限度額を支払った医療機関を含む)ある場合で、合算した自己負担額が自己負担限度額を超えている場合は、自己負担限度額を超えた部分を高額療養費として受給できます。

 

例:所得区分ウの人が同月内に下記のように医療機関にかかった場合

A病院で入院 
自己負担額(3割負担):90,000円(総医療費30万円※) →自己負担額が21,000円以上なので合算可能
※限度額適用で窓口での支払いは80,100円+(300,000円-267,000円×1%)=80,430円

B病院に通院 
自己負担額(3割負担):30,000円(総医療費10万円)→自己負担額が21,000円以上なので合算可能

C病院に通院 
自己負担額(3割負担): 3,000円→自己負担額が21,000円未満なので合算不可

上記のような受診パターンの場合、B病院単体では自己負担限度額を超えていませんが「自己負担額」が21,000円を超えているので、A病院での自己負担額と合算して高額療養費の申請をすることが可能です。

A病院とB病院の総医療費(10割)は400,000円ですので

80,100円+(400,000円-267,000円×1%)=81,430円がこの受診月の「自己負担限度額」となります。

A病院(限度額適用80,430円)+B病院(30,000円)=110,430円をすでに支払っているため、高額療養費を申請すれば29,000円が支給されるということになります。
※この月の「自己負担額」はA病院+B病院=81,430円(自己負担限度額)C病院に支払った3,000円を合計して84,430円 です。

1つの病院での受診に対して高額療養費の申請や限度額適用認定証を提示するという事は病院側からも案内があることも多いため、Noppoでも必要になった方から申請を依頼されることが多々あるのですが、複数の病院にかかった時に合算できることを知らない方や、病院から案内されない、ということもあると思います。

事実、私が転院した時も転院先のB病院では同月内にA病院から転院してきたことを知っているはずですが、高額療養費の合算については案内がありませんでした。
1か月の間に複数の病院に受診することや同一の病院でも入院していた病院に通院するなど、区分が異なる支払いを行うことは大いにあり得ると思いますので、もっとこの制度が周知されると良いなと思っています。

最後に

私が入院していたリハビリ専門病院は、高齢の患者さんもいましたが「仕事復帰を目指してリハビリをしている=休職中」という患者さんも多かったので、リハビリ期間が長くなってくると患者同士の会話の中でも職場復帰への不安や金銭的な面での不安を口にする人が多かったのが印象的でした。しかし、会社から送られてくる書類を何の書類なのかあまり理解しないままに病院の事務スタッフさんに提出している人も少なくなかったので、制度を知らないことがより一層不安につながっていると感じましたし、普段見たことのない書類を渡された時に文字だけで理解することの難しさを痛感し、自分の仕事を振り返る機会にもなりました。
※もちろん、会社側がとても丁寧に説明していて、制度をしっかり理解している方もいました。

私自身は幸運なことに社労士事務所に勤めているので自分が長期で休職した時も、利用できる制度が思い浮かびましたし、一時的に支出だけが続いてもあとから受給できることを知っていたため金銭的な不安はさほど大きくなかったのですが、それでも毎月入院費を会計するときは出ていく金額の大きさに「おぉ…」と思ったことを覚えています。

休職中はただでさえ自身の体調や今後の社会復帰に対する不安を抱えている中で、収入が減るのに加え医療機関にかかれば支出だけは増えてしまうので、金銭的な問題はさらなる不安の種になりますし、精神的にも負担が増えることになります。
そんな時、今回ご説明した制度があると知っているだけでも、いくばくかの不安は拭えるのではないかと思います。

また、会社の事務担当者の方にもこういった制度があるのだと覚えておいて欲しいです。特に中小企業では、一人の休職が他の社員の負担を増やすことに直結します。事務担当者の方は通常の業務にプラスして休職している方のフォローが必要になるため、繁忙時に見慣れない書類を扱うことになりますので事務担当者の負担が大きくなることは間違いありません。
あらかじめ知識として制度が頭に入っているだけでも、多少の余裕が生まれると思いますし、それが休職中の方への安心にもつながると思います。

休職中の方や事務担当者の方に、今回の記事が少しでもお役に立てば幸いです。

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