社員の離職を防止する「介護休業」の基礎知識 後編

Noppo社労士事務所のWatabeです。前編では「介護休業」についてご説明しました。

今回は、一定の条件を満たすと介護休業中に受給することができる【介護休業給付】についてご説明致します。

 

育児休業中に受給することができる「育児休業給付」は聞いたことがある方が多いと思いますが、介護休業にも「介護休業給付」という制度があることをご存知ですか?

介護休業期間中、労働者は基本的には就業しないため事業主には賃金を支払う義務がありません。会社ごとに就業規則で休業中の賃金の有無について決めることができますが、ノーワーク・ノーペイの原則にのっとり「休業中は無給」と規定している会社も多いと思います。

しかし、実際に休業を取得する労働者の立場からすると、一時的とはいえ手元にお金が入ってこない期間があることに不安を感じたり、金銭的な理由から休業を取得すること自体を躊躇してしまうということもあり得ます。そこで、介護休業中に減少した収入を補填するために【介護休業給付】が制度として設けられています。

 

介護休業給付とは

雇用保険の被保険者で、配偶者、父母、子などの対象家族を介護するための休業を取得した人が一定の条件を満たした場合に、ハローワークへ支給申請することで給付されます。
①②を満たす介護休業について、対象家族1人につき93日を上限に3回までに限り支給されます。

①負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上※にわたり常時介護を必要とする状態になる家族を介護するための休業

②被保険者が、その期間の初日および末日とする日を明らかにして事業主に申出を行い、これによって被保険者が実際に取得した休業

※「2週間以上」とは介護休業を2週間以上取得した場合に対象になる、という意味ではなく対象家族が常時介護を必要とする期間が2週間以上あると判断できる、という意味です。

 

 

受給資格

介護休業を開始した日前2年間に被保険者期間が12ヵ月以上 必要です。

休業開始日の前日から1ヵ月毎に区切った期間に賃金の支払いの基礎となった日が11日以上(または80時間以上)ある日を1ヵ月とします。
※現在の職場で1年以上働いていないから要件を満たせないかも…という方でも、一定の条件を満たせば前職の被保険者期間と合算できる可能性もございます。

なお、休業を開始する時点で休業終了後に離職することが確定(予定)されている人は対象になりません。介護休業給付は休業終了後に職場復帰することを前提とした制度です。

 

有期契約労働者(期間を定めて雇用される人)の場合

介護休業開始時において有期労働者(雇用期間の定めのある方)の場合は、無期契約の人の条件に加えて「介護休業の取得予定日から起算して93日を経過する日から6ヵ月を経過する日までにその契約期間が満了することが明らかでないこと」が必要です。

出典:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/closed/index.html

 

 

 

 

 

 

 

 93日経過する日から6カ月経過する日において「労働契約が満了することが明らか」というのは契約を更新しないことが確実であり、事業主が「更新しないと明示している場合」のみが該当します。
したがって更新しないと明示していない場合は原則として「更新しないことが明らか」とは判断されず、当該労働者については介護休業取得の対象となりますので注意が必要です。

支給要件・給付額について

支給要件

介護休業開始日から起算して1ヵ月毎に区切った期間(支給単位期間)について、下記の要件をすべて満たした場合に支給対象になります。

・支給単位期間の初日から末日まで継続して被保険者資格を有していること
・支給単位期間に就業していると認められる日数が10日以下であること
・支給単位期間に支給された賃金が休業開始時の賃金月額の80%未満であること

給付額

休業開始時賃金日額×支給日数※×67% で算出します。
※1支給単位期間の支給日数は原則として30日ですが、休業終了日の属する支給単位期間については、暦の日数(最後の支給単位期間の初日から休業終了日までの日数)となります。

 

前述の支給要件の中に「支給単位期間に支給された賃金が休業開始時の賃金月額※1の80%未満であること」という項目があります。
※1休業開始時賃金月額=休業開始時賃金日額※2×支給日数(原則30日)
※2休業開始時賃金日額=休業開始前6カ月分の賃金合計額÷180   

「支給単位期間中に支給された賃金」とは「その期間中に働いた分の賃金」ではなく「その期間中に支払い日のある賃金」をさします。
つまり、支給単位期間中にある給与支給日に支給された賃金のことです。

例:月末締め翌月25日払の会社 介護休業を4月10日~6月9日で取得した場合

支給単位期間
①4月10日~5月9日(この期間中にある給与支払日4月25日:賃金計算期間3月1日~3月31日)
②5月10日~6月9日(この期間中にある給与支払日5月25日:賃金計算期間4月1日~4月30日) 

ここまで聞くと①に支払われるのは3月稼動分(休業前)の賃金なので休業開始時賃金月額の80%以上になってしまうのではないか!?と思いますよね。
でも、ご安心ください。

「支給単位期間中に支払われる賃金」とは、介護休業期間外を対象とした賃金や、対象期間が不明確な賃金は含めず、「介護休業期間中を対象としていることが明確な賃金」のみが含まれます。

①の賃金計算期間は介護休業中ではないので「介護休業期間中を対象としている賃金」はなし
②の賃金計算期間のうち
 4月1日~9日は①と同様に休業期間中ではないので「介護休業期間中を対象としている賃金」はなし
 4月10日~30日までの介護休業中に労働し、発生した賃金が賃金月額の80%以上であれば②の支給単位期間については不支給になる、という事です。

 

休業期間中の労働について

介護休業中の就労は認められていますが、上記で述べた通り労働できるのは支給単位期間中で10日以下となります。10日を超えた場合は介護休業給付の対象となりません。

また、こちらも前述のとおり支給単位期間中に支給される賃金が「賃金月額の80%以上」の場合も支給されません。
ただし、80%未満であれば全額支給されるということではなく、下記のように賃金月額の何パーセントを支給されたかによって減額調整されます。

具体的に金額で例示すると…
休業開始時賃金日額が8,000円(休業開始時賃金月額が240,000円)で1か月の介護休業を取得した場合

①支払われた賃金が休業開始時賃金月額の13%以下(31,200円以下)のときは
 →満額(休業開始時賃金日額×支給日数×67%)が支給されます。
 例:支給単位期間中に支払われた賃金が20,000円の場合
   8,000円×30日×67%=160,800円 が支給されます。

②支払われた賃金が休業開始時賃金月額の13%超~80%未満のときは
 →休業開始時賃金日額×支給日数 の80%相当額(192,000円)と賃金の差額が支給されます。
 例:支給単位期間中に支払われた賃金が120,000円の場合
   192,000-120,000=72,000円 が支給されます。

③支払われた賃金が休業開始時賃金月額の80%以上のときは
 →支給されません
 例:支給単位期間中に支払われた賃金が195,000円の場合
   休業開始時賃金月額の80%以上の賃金が支払われているので介護休業給付は支給されません

 

介護休業給付を申請するのに必要な書類

【受給資格確認に必要な書類】
・雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
・賃金台帳、出勤簿(タイムカード)
 →賃金月額証明書で証明する期間分を添付します。

【支給申請に必要な書類】
・介護休業給付金支給申請書(被保険者と対象家族のマイナンバー記載)
・介護休業申出書(前編で紹介)
・休業期間を含む賃金計算期間分の賃金台帳および出勤簿(タイムカード)
・住民票(対象家族の氏名、生年月日、被保険者との続柄の確認)
 →対象家族が同居でない場合は「戸籍謄本」が必要です。
・被保険者名義の通帳(またはキャッシュカード)の写し
 ※申請書を手書きする場合のみ必要

◇介護休業を終了した翌日から申請が可能です。
◇申請の期限は介護休業終了日の翌日から2か月後を経過する日の属する月の末日まで となります。

例:介護休業を4月10日~6月9日で取得した場合
・申請ができるようになる日→6月10日
・申請期限→8月9日が属する月の末日→8月31日  ということになります。

 

休業期間中の社会保険料について

育児休業と違って、介護休業には休業中の社会保険料を免除する制度がありませんので、休業期間中も健康(介護)保険料や厚生年金保険料の徴収が必要になります。
休業期間が1ヵ月を超えるような場合は給与の支給が無い状態であっても保険料を納付しなければなりませんので、休業に入る前に労働者との間で徴収方法について取り決めておくとスムーズです。

介護のために通勤経路から外れた際の労災について

 前編で「同居をしていない家族でも介護休業の対象になる」とお伝えしました。休業前や休業終了後にも、別居している家族の介護が必要な場合もあるかと思います。出勤時または帰宅時に介護のために通勤経路ではない場所に立ち寄った際の被災でも通勤災害として扱われるのでしょうか?

大前提として「通勤災害」とは、【労働者が通勤により被った負傷、疾病、傷害又は死亡】のことを言います。

この場合の「通勤」は合理的な経路および方法により行う移動であることが前提で、移動の経路を逸脱しまたは移動を中断した場合、逸脱または中断の間およびその後の移動は「通勤」と認められません。ただし例外として逸脱・中断が「日常生活上必要な行為」であって「やむを得ない理由により行うための必要最低限の間」であれば通常の通勤経路への復帰後は通勤として認められる場合があります。

逸脱:通勤の途中で通勤と関係のない目的で合理的な経路から外れること
中断:通勤の経路上において通勤とは関係のない行為をおこなうこと

では、会社から自宅の帰宅途中に通勤経路上にない実家などに立ち寄り家族の介護をした場合はどうでしょうか?

以前は家族の介護は逸脱・中断の例外に含まれていなかったのですが、現在は家族の介護についても「日常生活上必要な行為」として認められるようになりました。

ただし、どんな介護でも逸脱・中断の例外として認められるわけではなく【要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹並びに配偶者の父母】の介護であって【介護が継続的にまたは反復して行われる場合】に限られますので、被災労働者にとって介護が日常的に行われている行為であることが認定のカギとも言えます。

また、会社から自宅までの通勤経路を逸脱した時点から介護が終わって通常の通勤経路に戻るまでの間は「逸脱・中断の最中」となるため、その間の被災については通勤災害には該当しません。実家から自宅に帰宅する途中で通常の通勤経路に復帰した後の被災のみが「通勤災害」として扱われます。

 

介護休業制度の今後について

厚生労働省は次の育児介護休業法改正に向けて「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」を立ち上げ、育児休業や介護休業について現状の分析や論点整理を行い、今後の在り方について複数回にわたって検討が行われました。
仕事と介護の両立支援制度に関する情報提供や制度を利用しやすい雇用環境の整備について検討される中で、育児休業取得時に使用者に義務付けられている「個別周知」について、介護休業取得の申し出があった労働者に対しても使用者が制度の内容などを個別に周知し、仕事との両立に必要な制度が選択できるように労働者に働きかける必要があるとされました。介護休業においても個別周知が義務化される日は遠くないかもしれません。

 

 

最後に~Watabeの体験から~

Watabeが大学生の時、祖母が他界し一人暮らしになった祖父の認知症が急速に進んでしまい、毎日交代制で親戚の誰かが祖父の家に泊まるという生活をしていた時期があります。

祖父は身体的な介助はさほど必要なく、もともと入浴などは介護サービスを利用していたので、私たちが祖父を抱えて移乗するような介護をすることはなかったのですが、体が自由に動くだけにじっとしていることができず、目を離したすきに一人で家の外に出ていかないか、家の中でも階段や段差で転倒しないかなど祖父と過ごす間は常に気を張っている必要がありました。祖父の入居先が決まるまでの数カ月間で親戚の間に徐々にたまっていく不満や疲労の空気感は今でも強く印象に残っています。

介護を理由として離職することを「介護離職」と言います。

時間も体力も余裕のあった大学生の私ですら「いつまで続くのかなぁ」と不安に思ったあの生活を、今の年齢で働きながら、さらに自分の家庭のこともこなしつつ…と考えると、正直無理があるなと思います。なので、仕事をしている人が家族の介護をしなければならない状況になったとき、「介護離職」を選択する人がいることも頷けます。

ただ、「自ら望んで離職を選択した」のか「離職を選択せざるを得なかった」のかでは大きく異なりますし、「介護休業」という選択肢があることを知っているかどうかで選ぶ未来が変わる可能性があると私は思います。

また、介護休業に関する情報が周知されることは会社にとっても大きなメリットがあります。介護休業中は一時的とはいえ貴重な労働力が減るため会社にとって痛手であることは間違いありません。ただ従業員が「介護のために離職しなければならないかもしれない」という状況になってしまった時、介護休業を取得してもらうことで仕事と介護を両立する基盤をつくり、離職を回避することができれば、会社にとって大切な資源である「人」を失わなくて済むかもしれません。

 

前編でもお伝えしましたが、今後は家族の介護が必要になる人が増えることは想像に難くありません。他人ごとのように感じている間は入ってくる情報が素通りしがちですが、介護をしなければならなくなったその時にうっすらとした情報でも頭の片隅に残っていれば、そこから情報を収集することができます。そのためにも事前の周知が重要になってくると思います。


どの業界でも人材不足が叫ばれるこの時代に介護が原因で貴重な働き手を失わないために、また働き続けたいのに離職を選択せざるを得ない人が減るように、「介護休業」が育児休業と同じくらい周知され、制度をうまく活用しながら介護ができる環境が整うことを願っています。

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