新型コロナウイルスが「5類」に移行してからの傷病手当金の申請について

 

Noppo社労士事務所のWatabeです。人類が新型コロナウイルスと出会って、3年以上が経過しました。

初めてニュースを見た時は、海外で起きていることとしか思っていなかったので正直「対岸の火事」のような感覚で、まさか世界中でこんなにも流行し、長きにわたって私たちを混乱させるウイルスになるとは思ってもみませんでした。

2020年の2月にあのクルーズ船で感染者が出た時も、「船の上で大変なことが起きているな」とは思っていたものの身近で起きていることという感覚が薄かったので、そこから瞬く間に感染が広がっていく様に漠然と恐怖を感じたことを覚えています。日本で感染者が続々と出始めた頃になってようやく身近で起きている事なのだと意識したのは私だけでなかったのではないでしょうか。

Noppoでも当初から「従業員が新型コロナウイルスに感染した時はどう対応したら良いか」という相談がありましたし、実際に社内で罹患者が出たという報告が徐々に増えていきましたが、特に記憶に残っているのが第7波(R04.07月~R04.09月頃)で感染が急拡大した時です。
罹患者の報告数がぐっと増え、休職に伴う申請(傷病手当金・労災)が目に見えて増えたことを覚えています。あの時は何が正しい情報なのか判断するのも難しく、誰もが混乱の最中にいました。

各国で新たなウイルスに対する対応が異なっていた時期もありましたが、徐々に足並みがそろい、日本でもついにR05.05.08から新型コロナウイルス感染症が「2類相当」から「5類」に引き下げられ、法律に基づく行動規制などはなくなりました。

しかし、「5類」になったからと言ってウイルスが消滅したわけでも、感染力が落ちたわけでもありません。私たちは今でも新型コロナウイルスに感染する可能性が十分にあります。5類に移行したことで、罹患後の自粛をするかどうかは個人の判断にゆだねられることになりましたが、社員から「コロナに罹患しました」という報告を受けた場合に「それでも出社して」という会社はあまりないのではないかと思います。今でも「コロナに罹患=休職」が通常の流れになっているのではないでしょうか。

今回は、5類に移行してから新型コロナウイルス感染症に罹患し、休職した際の注意点をご説明いたします!

感染拡大時の臨時的な措置

感染が急拡大したことに伴い、医療機関や保健所の負担を軽減するための臨時的な取り扱いとして、R04.08月以降の新型コロナウイルス感染症によって休職した際の傷病手当金は、通常添付が必要な「医師による労務不能の証明」を省略できるようになりました。

そのため、必ずしも病院でPCR検査を受ける必要がなく、自宅で抗原検査を行い陽性反応が出た人も、事業主が「労務に服していないこと」を証明することで申請が可能になりました。これは協会けんぽだけでなく、全保険者に対して統一的な取り扱いとして発表されたので、普段は協会けんぽよりも審査が厳しい(私の主観ですが)健康保険組合や、通常は傷病手当金を支給していない国保組合でも同様の取扱いでした。
※保険者によっては事業主の証明以外に別途添付書類の提出を求めるケースもありました。

当時は新型コロナウイルス感染症で受診できる医療機関が限られていたこともあり、医療機関がパンクするのではないかという混乱が続いていて「発熱外来の予約が困難で受診ができない」というケースや、運よく受診できたとしても「医師や保健所の証明を待つと2~3ヵ月以上かかる」という事例が頻発していたので、厚労省の措置は申請する人にとっても、受給する人にとっても有難い措置だったと思います。

感染症第5類に移行してからの傷病手当金

R05.05.08から新型コロナウイルスが感染法上「2類相当」から「5類」に引き下げられ、臨時的な取り扱いが終了となったため、現在は新型コロナウイルスの申請はR04.07月以前と同様に「医師による労務不能の証明」の添付が必須となっています。

そのため以前のように「自宅で抗原検査を行って陽性だった」というだけでは申請することができません。
傷病手当金を申請する場合は「医師から労務不能の証明をもらう」必要があります。そのため、必ず病院を受診しなければならなくなりました。

傷病手当金を申請できるケース

新型コロナウイルスに感染した場合の症状の有無や検査結果で陽性・陰性など、組み合わせが4つあります。
どのようなパターンの場合に傷病手当金を申請できるのか下記でご説明いたします。

①自覚症状があって陽性の場合
②自覚症状がないけれども陽性の場合

どちらの場合も医師から「新型コロナウイルスに感染しているため労務不能」という証明をもらうことが可能です。
以前は、感染症法に基づき外出自粛が求められる期間が決められていたので「法律上で外出自粛が求められる期間=傷病手当金の申請期間」となることがほとんどでした。

現在は法的に自粛の規制がなくなったため、申請期間については「医学的な見地から見て医師が労務不能と認めた期間」です。

また、病院を受診した「初診日」よりも前から感染していたと医師が認めた場合、労務不能と認める期間の初日が初診日よりも前になる、という事があり得ます。
自宅で抗原検査を受け陽性だったので病院を受診する、という場合は陽性反応が出た日と病院を受診する日(初診日)が必ずしも同日になるとは限りません。その場合でも、医師が「陽性が出た日」を労務不能の初診日として認めた場合は、その日を傷病手当金の申請の初日とすることができます。
※新型コロナウイルス感染症以外での傷病手当金でも同様のことが起きないわけではありません。しかし医師から「初診日よりも前の期間については症状を把握できないので労務不能の証明はできない」と言われてしまうケースも多いので、申請期間は初診日以降になるというのが一般的です。

 

③自覚症状があるけれども陰性の場合

医師が「労務不能」と認めた場合は申請ができます。
ただし、その場合は「新型コロナウイルス感染症」によるものではなく、その時の症状から医師が「咽頭痛」や「発熱」など別の病名をつけることになります。

 

④自覚症状がなく陰性(家族で感染者がいる場合など)

本人に自覚症状がなく、また陰性である場合は申請ができません。

医師が証明する期間について

今までは陽性者や濃厚接触者に一定期間の行動制限が課せられていました。

自粛の要請期間は10日間から7日間に変わり、5類に移行した現在では行動制限自体がなく本人の判断によるものとされていますが、厚労省が「発症後5日間は他人に感染させるリスクが高いことから外出を控えることを推奨する」としています。そのため医師が「労務不能と認める期間」については「5日間」とされる可能性があります(本人の症状がどの程度続くかによっても期間は異なるかと思います)。

傷病手当金は医師が労務不能と認めた期間のうち4日目から受給対象期間になります(初日~3日目までは待期期間のため受給対象期間から外れる)。病院を受診して、医師から証明をもらっても医師が労務不能と認めた期間が5日間だった場合、傷病手当金は「たった2日間しか受給できない」ということになる場合もあり得ますので申請には注意が必要です。

医師が労務不能と認めた期間が5日間の場合、傷病手当金ではなく年次有給休暇を取得したほうが傷病手当金を受給するよりも本人の手元に入る金額は大きくなりますので、ご本人が年次有給休暇を使いたくない(もしくは残日数が不足している)という場合を除き、年次有給休暇を使用した方が良いケースも想定しておくと良いかと思います。

 

従業員から「コロナに罹った」と報告を受けたら…

・いつ発症したのか(症状がどのくらい出ていて、いつ陽性になったのか)
・病院を受診しているか

を確認し、併せて

・年次有給休暇がどのくらい余っているか
・本人は年次有給休暇を使う意思があるか   

をご確認下さい。

傷病手当金の申請時に医師から「労務不能の証明」をもらうことになりますが、証明を書いてもらうのは無料ではありません。※保険適用なので大体の病院が300円くらいの金額です。
大きな金額ではないとはいえ証明は無料ではありませんので、もし可能であれば証明を依頼する前に「いつからいつまで証明をもらえそうか」を確認してみてください。「証明できる期間は5日間」という回答であれば、先ほどもお伝えした通り受給できるのは「2日間のみ」となりますので申請自体をどうされるか考えるタイミングになるかと思います。

最後に

WatabeはR05.08月に新型コロナウイルス感染症に罹患しました。実は2回目の感染です。

幸いにも症状が軽く、また仕事もリモートでできたので休職することも社内で被害を拡大することもなく済んだのですが、ひたすら続く微熱と倦怠感に体力を奪われ、感染してから数日間は仕事が終わった後はぐったりしていました。

その時の感染経路ははっきりしていて、数人の友人と食事をした際にその中の一人が感染していたことが後に判明し、参加者がみな感染するという「ミニクラスター」のような状態だったのですが、同時に感染した友人達も症状が軽かったようで、私も含めみんな病院には行かず自宅で検査し、自宅療養で自粛推奨期間を過ごしたと聞きました。

新型コロナウイルスが大流行し、医療機関がパンク寸前となった頃から私たちの中に「重症化リスクのない人や軽症の人は病院を受診せずに自宅療養」という共通認識が刷り込まれていると思います。そのため、今回罹患した時も病院に行かず自宅で療養しようと思いましたし、病院に行くという選択肢すら思い浮かびませんでした。私の友人たちも同じだと思います。

しかし今回お伝えした通り、傷病手当金を受給するためには医師から証明をもらう必要があります。そのため従業員から「コロナに罹患した」という連絡をうけたら必ず「病院を受診しているのかどうか」を確認し、そこから本人の症状を鑑みつつ休職期間を年次有給休暇で処理するのか、傷病手当金を申請するのか、など対応を考える必要があるという事を覚えておいてください。

特に、「年次有給休暇が残っていない、入社後すぐで年休が付与されていない」という人が新型コロナウイルスに感染したことで休職し、いざ傷病手当金を申請しようとなった時に「病院を受診していない」という事実が判明すると、時すでに遅し・・・【単なる欠勤扱い】という事になってしまいますので初動に注意が必要です。

コロナと付き合っていかなければならない世の中がいつまで続くか先行きは分かりませんが、上手に付き合うためにもその時々で時世をみながら対処していく必要があるなぁと実感する出来事でした。

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