兼務役員の雇用保険加入手続きと、手続き後に気を付けるべきポイント

Noppo社労士事務所のTomoishiです。

会社は、労働者を一人でも雇っていれば、雇用保険の加入手続きが必要です。
常用、パート、アルバイト、派遣等の名称や雇用形態にかかわらず、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、②31日以上の雇用見込みがあるものは、原則として被保険者となります。

一方、会社の役員は原則として雇用保険に加入することができません。

しかし中小企業の場合は、取締役等の役員であると同時に部長や支店長や工場長など、従業員としての身分も兼ねている場合があります。
このように、会社の役員でありながら同時に従業員としての身分を有している人のことを「兼務役員」と言いますが、兼務役員は、特定の条件を満たしている場合に限り、雇用保険の被保険者となることができます。

兼務役員が雇用保険に加入する際の手続きは、その条件を満たしているかどうかを確認するため、通常の従業員の資格取得手続きと異なる点が多々あります。
そこで今回は、兼務役員が雇用保険に加入する際の手続きと、加入後の実務で気を付けるべきポイントについてご紹介いたします。

「兼務役員」が雇用保険に加入するための条件とは?

冒頭でお伝えした通り、原則、会社の役員は雇用保険の被保険者となることができません。
しかし「兼務役員」は、就労実態や報酬の支払い等の面からみて労働者的性格が強いものであって、雇用関係が明確に存在している場合に限り、被保険者となることができます。

労働者的性格について

では、労働者としての性格が強いかどうかは、どこで判断されるのでしょうか?
ポイントとなるのは、主に次の3点です。

①役員報酬が労働者としての賃金を上回っていないこと
②代表権・業務執行権を持っていないこと
③就業規則が適用されていること

以下で詳しい内容を見ていきます。

役員報酬が労働者としての賃金を上回っていないこと

兼務役員には、「役員報酬」と「従業員としての給与」の2種類が支払われています。
労働者としての性格が強いと認められるには、役員報酬よりも従業員としての給与が多く支払われている必要があります。

代表権・業務執行権を持っていないこと

代表権(会社を代表し、会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限)を持っている代表取締役などの場合、雇用保険に加入することはできません。

また業務執行権とは、代表者が行う対外的代表行為を除く会社の諸行為のほとんどすべてを行う権限をさします。定款の規定で明確に業務執行権を有すると記載されている場合や、取締役会規則などの内部規則によって業務執行権の一部を委任されている場合は、労働者としては認められません。

就業規則が適用されていること

原則として、就業規則は従業員について定められたものなので、役員には適用されません。
他の従業員と同様に就業規則が適用されていなければ、労働者としての性格が弱いとみなされてしまいます。

以上の3点の他に、出勤義務の有無や勤怠管理が行われているかどうか等の実態を確認したうえで、ハローワークで総合的に判断されることになります。

「兼務役員」の雇用保険手続きについて

兼務役員雇用実態証明書

まず必要となる書類が、「兼務役員雇用実態証明書」です。
書式自体は、インターネットからダウンロードすることが出来ます。
記載内容としては、氏名・生年月日・被保険者番号・会社の事業所名・適用事業所番号等の対象となる兼務役員に関する情報の他、服務態様や給与、社会保険の加入状況や諸帳簿への登録整備状況があります。

添付資料として求められるもの

また、労働者性の強さについて判断するため、いくつか添付資料が求められます。
代表的な書類は下記の通りです。

・資格取得届(または資格取得確認通知書)の原本
・雇用契約書
・労働者名簿
・出勤簿
・賃金台帳
・登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
・定款
・議事録
・就業規則
・給与規程
・人事組織図
・役員報酬規程
・申立書
(上記の書類で確認できない内容があった場合。任意の書式)

「兼務役員雇用実態証明書」と資格取得届(または資格取得確認通知書)以外の添付書類は、全て写しで構いません。

書類の説明や注意点

・資格取得届(または資格取得確認通知書)の原本
「兼務役員確認済み」のスタンプが押されて返却されます。
兼務役員となる前に電子申請で資格取得手続きをしていた場合は、公文書として発行されたPDFを印刷したものが原本にあたります。紛失等で原本がない場合は、再発行の書類を提出するよう求められることもあります。

・登記事項証明書や議事録について
就任日の確認に使用しますので、就任時のものを準備しましょう。

・出勤簿や賃金台帳について
一般的には就任前1か月、就任後1か月、直近1か月の3か月分が必要になります。
特に兼務役員の場合は、勤怠管理が他の従業員と同様に行われているかどうか実態を確認する必要があるため、最低でも就任後1か月程度の資料を求められることが多いです。ただ、管轄のハローワークによって求められる期間が異なる場合もありますので、都度確認して準備をしてください。

・就業規則や賃金規程について
原則は就業規則一式を提出する必要がありますが、対象となる兼務役員が正社員の場合は、正社員に適用されるものだけでも受け付けてもらえることもあります。

・役員報酬規程について
対象となる兼務役員の役員報酬額の確認に使用します。
役員報酬規程を作成していないという場合は、申立書(任意の書式)の提出、又はハローワークから「従業員兼務役員の役員報酬について」という書類を取り寄せて、記載・添付を求められることもあります。

・定款について
代表権、業務執行権の有無を確認します。

これらの書類がすべてそろっていないと手続きが受理されないということはありませんが、審査に必要で求められている添付書類になりますので、なるべく準備するようにしてください。
各種添付書類をどうしても準備できない場合、基本的には申立書を作成することで代わりとすることができますが、場合によってはハローワークの書式で記載・提出を求められることもあります。
くどいようですが、必ず管轄のハローワークに確認したうえで準備を進めましょう。

手続き後の注意点

兼務役員の場合、役員と従業員の2つの身分を兼ねていることになりますが、労災保険や雇用保険の対象となるのは、あくまでも従業員としての部分のみです。最後はこの点についてご説明いたします。

労災保険給付

労災保険の対象となるのは、従業員として従事していたときのみです。役員としての業務を行っている際に被災した場合は労災保険の対象外となるため、保険給付を受けることはできません。

年度更新

兼務役員に関する年度更新での注意点は、
①従業員としての給与のみを記載すること
②「役員で労働者扱いの人」欄に記載すること の2点です。

兼務役員の場合、役員報酬と従業員としての給与の2種類が支給されていますが、このうち労働保険料の対象となるのは従業員としての給与だけですので、年度更新の「確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表」に記載する金額は、従業員としての給与の金額になります。

また、記載する項目も他の雇用保険加入者とは異なります。通常、雇用保険の資格を有する労働者は「常用労働者」の列に記載されます。しかし、兼務役員の場合はその右隣り「役員で労働者扱いの人」の列に記載することになります。
下の画像でいうと、赤線で囲った部分が兼務役員の人数・賃金額を記載する場所です。

兼務役員の場合、記載する列は他の雇用保険加入者と異なりますが、労災保険も雇用保険も対象となるため、左右2箇所に記載箇所がある点は他の雇用保険加入者と変わりません。

雇用保険料の計算方法

労災保険と同様に、雇用保険の対象となるのは従業員としての給与のみです。
そのため、兼務役員の雇用保険料は【従業員としての給与×雇用保険料率】で計算します。

資格喪失時

兼務役員が従業員としての身分を喪失して兼務役員でなくなった場合は、雇用保険の資格喪失届を提出して資格喪失手続きを行う必要があります。タイミングとしては、たとえば役員報酬が従業員としての給与を上回ったり、専任役員になって従業員としての給与の支給がなくなった時があげられます。

この他、兼務役員として会社を退職する場合も、他の従業員同様に資格喪失手続きを行います。資格喪失に伴って離職票を発行する場合、離職票に記載する賃金額は従業員としての給与部分のみです。役員報酬は含みません。

兼務役員でなくなるタイミングとしては、役員としての身分を喪失して完全に従業員の身分になる可能性もありますが、この場合の手続きは特にありません。

兼務役員として雇用保険の資格取得を行う時だけでなく、資格取得後も様々な手続きで役員報酬と従業員としての給与を区別して取り扱う必要が出てきます。いざ手続きを行う際に混乱しないよう、兼務役員就任時から役員報酬と従業員としての給与を明確に区別できるようにしておきましょう。

まとめ

兼務役員は、「兼務役員雇用実態証明書」といくつか添付書類をハローワークへ提出し、労働者的性格が強いと認められれば雇用保険に加入することが出来ます。

兼務役員の雇用保険加入手続きは、通常の資格取得手続きよりも準備しなければならない資料が多いだけでなく、会社を管轄するハローワークによって求められる添付資料が異なることもある点が非常にややこしい手続きです。
準備に時間がかかることが予想されますので、お手続きを希望される場合はお早めにNoppoへご連絡ください。

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