派遣業の許可申請を検討している方へ

派遣業の許可申請を検討してる方に「主な要件」をご説明したいと思います。インターネットで調べても、古い情報も数多掲載されているので、「一体どれが現時点の情報なのだろうか」と判断に悩むのではないでしょうか。現在の派遣業の許可申請は、高いハードルが課されているため、自社が申請可能かどうかをまず確認したい方は、「この条件をクリアしていますか?」をチェックしてみてください。

基礎知識

労働者派遣事業は「許可制」

労働者派遣事業は平成27年の法改正によって「許可制」となりました。許可を得ずに始めたら違法となり罰則もあります。

更新が必要

許可が取得できたら終わりというわけではなく、最初は「3年」で更新申請をする必要があり、その後は「5年ごと」に更新申請をしていくことになります。

例えば、2023年6月1日に許可を取得した場合、

有効期間 2023年6月1日~2026年5月31日
となり、最初の更新期限は、2026年2月末日です。労働局から更新のお知らせが事前に郵送されてきますので、速やかに対応するようにしましょう。

派遣が禁止されている業務

派遣が禁止されている業務は以下のとおりです。④と⑤については一部派遣が可能なものもあります。これらの業務が禁止された理由は、港湾法などの労働力需給調整制度が既にあったり、業務の性質として派遣が適切ではないと考えられているためです。

①港湾運送業務
②建設業務
③警備業務
④病院等における医療関係の業務(紹介予定派遣・産休等代替をする場合など一部を除く)
⑤その他 弁護士、司法書士、税理士(一部業務は除く)、社労士(一部業務は除く)など

申請から許可までどれくらい必要?

要件をすべて満たし、申請書類を問題なく揃えることができるのであれば、受理された月の3か月後に許可を得ることができます。以下のようなスケジュールです。

3月 申請書類の提出・受理

4月 労働局内審査(実地調査、書類審査)

5月 厚生労働省内審査など

6月1日 許可

社労士に頼らず自分自身で情報収集をして申請をする場合は、受理されるまで何度か労働局に通うことになってしまう確率が高いので、時間に余裕をもって申請することをお勧めします。行政への申請に慣れていなければ、少なくても3度程度は通うことになってしまうでしょう。

この条件をクリアしていますか?

もっとも厳しいのは「資産要件」でしょう。開業してからある程度の売上と利益を計上してきた会社はこの要件をクリアできる可能性があると思いますので、直近の決算報告書を確認しましょう。

資産要件

以下の3つが現時点での要件となっています。以前は緩和措置もありましたが、今は以下の要件を満たさなければ資産要件をクリアできません。

①基準資産額が2000万円以上(1事業所あたり)
②基準資産額が負債総額の7分の1以上
③現金・預金の額が1500万円以上(1事業所あたり)

すでに「基準資産額」という言葉で、一瞬心が折れそうになりますが、我慢してください。基準資産額は、貴方の会社の直近の決算報告書(貸借対照表のページ)があれば確認できます。

基準資産額とは、以下のように求めます。

「資産総額ー(繰延資産ー営業権)ー負債総額」
※繰延資産…創立費、開業費、開発費など。詳しくは顧問税理士さんへご確認を!

いかがでしょうか?結構ハードルが高いと感じられた方も多いかもしれません。ただ、ここをクリアしなければ前へ進めなくなってしまいますので、ひとまずこの要件を何とかしましょう。もし、上記要件のいずれかを満たせないときは以下のような対応方法もありますので、参考にしてください。

事業所要件

事業所要件は以下のとおりです。ある程度の広さがあり(20㎡以上)、事務所としての独立性が保たれていて、プライバシーの保護に問題のない環境が整備されていることは、一般の事業を行っていてもクリアする必要があることでしょう。同居している他の会社があれば、派遣事業を適切に行える事業所と判断されなくなってしまうため、「固定式のパーテーションで仕切るなど」の対策を行い、20㎡以上の広さを確保してください。

①事業で使用できる面積が20㎡以上あること
②使用目的が「事務所」であること
 ※賃貸借契約書を確認しましょう。使用目的が「住居」となっていれば変更する必要があります。
③事業所の独立性が保たれていること
 ※他の法人が同居している場合には、自社スペースが完全に独立していることが必要
④プライバシーを保持できる面談室を備えていること
 ※個室の面談室があれば確実ですが、無ければ180cm以上のパーテンションを用いて準備することも可

派遣元責任者の要件

派遣元責任者は、以下の要件をすべて満たす必要があります。

① 自己の雇用する労働者または役員(監査役不可)かつ、派遣元で派遣元責任者として業務に専念できる者を選任すること
② 労働者派遣が行われている地域に日帰りで往復できること
➡首都圏であれば問題はないでしょう
③ 職務代行者※を選任すること
※派遣元責任者が不在時に臨時に対応してもらう人です。特に要件はありませんが、役割を適正に遂行できるかどうかの確認として常勤性や雇用保険に加入していること(週20時間以上の勤務)を求める労働局もあるようなので、必ず窓口に確認しましょう。
④ 派遣元責任者講習を許可の申請の受理の日前3年以内に受講すること
⑤ 3年以上の雇用管理経験があること
➡人事または労務担当者、支店長、工場長、労基法上の管理監督者であったと評価できる者

その他の要件として

定款や謄本の事業目的に「労働者派遣事業」を行うことが読み取れなければならなかったりもしますが、お金と時間さえあれば解決できるかと思います。

また、適正に労働保険や社会保険に加入する必要があります。顧問社労士がいれば適正な加入手続きは問題ないと思いますが、顧問社労士がいない場合は抜けや漏れがないかをチェックしたほうが良いでしょう。

ただ、その中でも「派遣労働者のキャリア形成を支援する制度」については難儀するかもしれません。派遣労働者を対象に、キャリア形成を念頭に置いた段階的・体系的な教育訓練計画を立てる必要があり、以下の要件を満たす必要があります。

◆雇用する全ての派遣労働者を対象としている
➡過去に同じ内容の教育訓練を受けたことが確認できれば適用除外も可能

◆有給かつ無償である
➡この取り扱いを就業規則または労働契約に規定する必要あり

◆派遣労働者のキャリアアップに資する内容である
➡派遣労働者としてより高度な業務に従事すること、派遣としてのキャリアを通じて正社員として雇用される目的としているなど
※前述の派遣元事業主は教育訓練計画について、キャリアアップに資する内容であることを説明できなければならないので、専門家へ全て丸投げはできません

◆入職時に行う教育訓練が含まれている

◆無期雇用派遣労働者の場合、長期的なキャリア形成を念頭とした内容である
※派遣元事業主はこちらの内容についても説明できなければなりません

◆キャリアの節目などの一定期間ごとにキャリアパスに応じたものとなっている

◆最初の3年間は年1回以上の教育訓練の機会が提供されている

◆フルタイムで1年以上雇用見込のある派遣労働者に対し、毎年概ね8時間以上の教育訓練の機会が提供されている(パートタイムは入職時が必須、時間は応分で)

介護保険ビジネスも同様ですが、制度ビジネスを展開すると、国からこのようなキャリアパス構築を求められる確率はかなり高いですね。現実的にはどこまで実効性が担保されているのかは疑問が残りますし、そもそも派遣労働者自身がそれを望んでいるのか?とも思います。とはいえ、制度ビジネスを展開する限り必須になるので、少しでも会社・派遣社員双方にとって有益な制度となるように設計したいものです。

許可申請に必要な添付書類一覧(例)

あとはとにかく届出に必要な書類を準備していくだけです。参考までに東京都の必要書類一覧を掲載します。

派遣添付書類一覧(新規)(R4.10変更版)

派遣業の許可申請に必要な費用は?

手数料や登録免許税が以下のとおり必要です。この2点に加えて社労士へ代行を依頼すれば、別途その報酬が発生します。

①手数料 120,000円分の収入印紙 ※申請事業所が増えると55,000円が加算
②登録免許税 90,000円の納付
(社労士への報酬)

派遣労働者を派遣する前に準備しておくこと

平成30年の法改正(令和2年4月1日施行)により、派遣労働者の待遇について、「派遣先均等・均衡方式」、「労使協定方式」のいずれかの方式により、派遣労働者の待遇を確保することが義務化されました。

そのため、派遣労働者を派遣する前にこのいずれかの方式を準備しておく必要があり、その準備と労使協定の締結をしないで派遣労働者を派遣することはできません。この内容を理解するのも結構手間と時間が掛かりますし、許可申請の前に派遣する人材の最低支払わなければならない時給を把握しておくことは必須と言えます。

さいごに

派遣業許可申請は、国が求める要件に従って申請をするものですから、専門家である社労士しかその内容を把握できないというものではありません。先述した要件をクリアし、時間さえあれば、自社で申請することも可能でしょう。実際、許可取得後も適切な運営をしていかねばならないわけですから、自社で頑張って情報収集をして全体像を適切に把握していくことは、どちらにしても必要で有益なことです。

ただ、許可申請は1回だけなんですよね・・。その後に何度も許可申請をするのであれば、自社で対応してもそのノウハウが蓄積されるので無駄になる時間も少なくなりますが、1回だけの許可申請であれば、”時間をお金で買うこと”を優先して、専門家に依頼するのもありかと思います。自社で対応すると、面倒な「許可・更新等手続マニュアル」も読み込む必要が出てきてしまいますし、それを1つ1つ読み解くことは非効率と言えば非効率かもしれません。当事務所の顧問先でも当社が少しだけサポートをして、あとは自社で申請されたところもありますが、あとで申請の感想を聞くと、「何度も足を運ぶことになったので、もう二度とやりたくありません・・」ということでした。

詳細については、各都道府県労働局の窓口か許可申請に詳しい社労士さんへご相談ください。

ご参考

当事務所へご依頼を検討する場合は以下のサイトをご確認ください。
社会保険労務士法人Noppo社労士事務所/総合サイト


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