社員の離職を防止する「介護休業」の基礎知識 前編
Noppo社労士事務所のWatabeです。
ご自身が育児休業を取得したことがある人や、身近に育児休業を取得した人がいる、という人は年々増えてきているのではないでしょうか。
実際にWatabeがNoppoに入社したころよりも、育児休業関係の申請を対応する機会は増えていると感じています。また近年では女性だけでなく男性が育児休業を取得するケースも増え始めています。育児休業が取得しにくい風潮が残っていないとは言えませんが、法整備が進み育児休業の取得が積極的に推し進められたことで以前と比べ格段に「育児休業の取得」に対して肯定的な社会になったことが要因であると考えます。今後も育児休業制度をうまく活用しながら育児をする人は増えていくと思います。
一方「介護休業」はどうでしょうか?
あまり聞きなれないという方や、聞いたことはあるけれども実際に取得している人を見たことがない、という方が多いのではないかと思います。
Noppoでも、育児休業と比べると申請する回数はとても少ないのが現状です。
戦後のベビーブームで生まれた「団塊の世代(1947年~49年頃に出生した人)」の全員が2025年には75歳以上になります。今後、介護の問題は避けて通れない社会になることは容易に想像がつきますが、まだ「介護休業」に対する認知度は低いと言わざるを得ません。
自社の従業員から「介護休業を取得したい」と申出があった時のために社内を整備しておくことは急務とも言えます。
今回は【介護休業】と【介護休業給付】についてご説明致します。
介護休業ってなに?
介護休業とは「労働者が要介護状態(負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護するための休業」です。
「常時介護を必要とする状態」とは2週間以上の期間にわたり継続的に日常生活における支援が必要な状態のことをいい厚生労働省が判断基準を公表しています。
(1)介護保険制度の「要介護状態区分」において要介護2以上であること
(2)下記表において状態2が2つ以上または3が1つ以上該当し、かつその状態が継続すると認められること
(1)(2)のいずれかに該当する場合「常時介護状態にある」と判断されます。
「要介護状態」と聞くと(1)の介護保険制度で介護サービスの必要度を判断する「要介護認定」を想像しがちですが、介護休業の場合、対象家族は必ずしも要介護認定を受けている必要はありません。介護認定を受ける前の家族や認定を受けられる年齢(40歳)に達していない家族、要介護1の認定を受けている家族でも(2)の表で常時介護が必要な状態と判断できれば介護休業を取得することができます。
介護休業を取得する場合、医師や認定調査員などの第三者が家族の状態を見て介護が必要かどうかを判断する必要はなく、労働者自身が家族の状態から「常時介護が必要な状態」だと判断し、事業主に申し出ることで取得が可能となります。
要介護2以上の認定を受けていれば判断が容易ですが、(1)に該当しない家族の場合は厚生労働省が発表している(2)の基準に沿って歩行、排せつ、食事、意思の決定や伝達ができるかなど日常的な動作から判断します。
介護の専門知識を持たない一般の労働者でも判断しやすいよう分かりやすい項目が設定されていますが、厚生労働省はこの基準を厳密に守ることを求めてはいません。
基準を重視しすぎて労働者が介護休業を取得する機会を制限してしまわないよう、事業主に対して労働者の個々の事情に合わせた柔軟な対応を求めています。
また「介護するための休業」といっても、病院の付き添いや、介護保険の手続き、ケアマネージャーとの面談、施設入居の準備や介護のための同居に伴う転居準備などが含まれており、休業を取得した労働者自身が介護をすることだけではなく【仕事と介護を両立できる環境を整えること】を目的としています。
利用回数
対象家族1名につき、3回(通算93日)まで 取得することが可能です。
一度上限の回数・日数まで取得した対象家族の介護状態が変化し、もう一度取得したいという場合は残念ながら対象になりません。
あくまでも「対象家族1名に対して3回(93日)まで」が限度です。
93日って短いような気がする…と思った方もいるのではないでしょうか。
これは先ほどもお伝えした通り介護休業の目的があくまでも【仕事と介護を両立できる環境を整えること】だからです。
家族の介護が必要になった時、大半のご家庭は介護サービスを利用しつつ今までの生活と介護をうまく両立する方法を考えなければならなくなります。
しかし、介護が必要になったからといってすぐに介護サービスを受けることができるわけではありませんので、方向性が決まり実際にサービスが始まるまではやむを得ず家族による介護が必要になります。この93日間は長期的な方針を決め、今後の介護について環境を整える(その間に発生する介護に対応する)ための期間だと考えてください。
介護休業を取得できる対象家族とは?
配偶者(事実婚を含む)、父母(養父母を含む)および子(養子を含む)、配偶者の父母( 養父母を含む)、祖父母、兄弟姉妹、孫 が対象家族の範囲になります。
以前は祖父母、兄弟姉妹、孫については「同居かつ扶養していること」が要件でしたが、現在は要件が廃止となったため、遠方に住む場合であっても対象家族の範囲に含まれていれば介護休業を取得することが可能です。
※配偶者の祖父母および兄弟姉妹は範囲に含まれていません
介護休業の申出とは?
介護休業の取得を希望する労働者は、事業主に対して「介護休業申出書」によって休業開始希望日の2週間前までに書面で休業の申出をする必要があります。
申出書に記載する内容は下記になります。
※事業主が便宜上認めた場合は、電子メールやFAXでの提出も可
・申出の年月日
・労働者の氏名
・申出に係る対象家族の氏名および労働者との続柄
・申出に係る対象家族が要介護状態にあること
・休業開始予定日と終了予定日
・申出に係る対象家族についてこれまでの介護休業日数
介護休業の取得は法律で決められた労働者の権利です。そのため、労働者から取得の申し出があった場合、事業主は原則的に拒否することを禁止されています。
事業主は、申出のあった労働者に対し対象家族が要介護状態にあることを証明できる書類の提出を求めることができますが、書類が提出されないことを理由に申出を拒否することはできません。
また、申出日と休業開始希望日の間が2週間を切る場合は、事業主が開始日を指定することができますが、申出が遅いことを理由に申出の拒否をすることはできません。
さらに、「うちの会社の就業規則には介護休業について規定がない」という場合でも、労働者から申し出があった場合は介護休業を取得させなければなりません。
当たり前ですが、休業の申出をしたり、実際に利用したことにより正社員をパートに変換したり退職を強要するような、労働者を不利益に取り扱うことは禁止されています。
ここまで聞くと、「申出があったすべての労働者に介護休業を取得させなければいけないのか?」という疑問が出てくるかと思います。
介護休業の取得は日雇いの労働者を除くすべての労働者が対象になっていますので原則的には「YES」です。
ただし労使協定を締結することで、申出があっても介護休業の対象から外すことができる労働者を決めることができます。
・入社1年未満の労働者
・申出の日から93日以内に雇用契約が終了することが明らかな労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
労働者代表(労働組合がある場合は労働組合)と締結した労使協定は、労働基準監督署への届出は不要です。
前編のまとめ
「介護」と聞くと、ご自身や配偶者の親や祖父母など高齢者の介護を思い浮かべる方が多いと思いますが、介護休業は子や孫など取得する労働者よりも若年の家族も対象範囲に含まれます。また介護といっても認知症だけでなく心の病、負傷や疾病による障害、先天的な障害に関する介護でも休業を取得することができます。
現代では情報が溢れていますので、必要であればいくらでも自身で調べることが可能です。ただ、突発的に家族の介護が必要になった時、パッと介護休業のことを思い浮かべられる人がどれだけいるでしょうか。何気なく聞いていた情報が頭の片隅に残っていて、後になって役立つという事も多いと思いますので、是非周知していきたい情報です。また、従業員から家族の介護に関する相談があった時に、事業主側としても情報を知っておくことで対応の幅が広がると思います。
介護休業の取得は従業員の権利とはいえ会社側から見ると貴重な労働力が一定期間就業できないことは痛手であることに間違いありません。2週間以上前に申出してもらうことで、当該労働者が労働から離れている間の対策を練る期間が確保できます。介護休業という制度がある、という事だけでなく正しい取得方法についても併せて周知していく必要があると思います。
今回は【介護休業】の制度についてご説明しました。
次回(6月上旬公開予定)は、【介護休業給付】についてご説明致します!
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