一本化される新しい処遇改善加算(介護職員等処遇改善加算)について

Noppo社労士事務所のTomoishiです。

11月30日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、介護人材の処遇改善等の改定の方向性について話し合われました。論点の中心となったのは、介護職員の処遇改善に関する3種類の加算(処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算)の一本化についてです。

今回は、厚生労働省が公表している資料をもとに、11月30日時点で話し合われた内容について見ていきたいと思います。

新加算のポイントは、大きく下記の6つです。
・一本化後の新加算の名称は「介護職員等処遇改善加算」
・4段階の加算区分
・「特定加算の職種グループごとの配分ルール」の撤廃
・新加算Ⅳの1/2以上を月額賃金で配分が必要
・職場環境等要件の見直し
・新加算への移行・経過措置

3種類の加算を統合するということで、名称はすっきりとわかりやすいものになったようですね。新しい名称はそれほど重要ではないと思いますので、2つ目のポイントから見ていきましょう。

4段階の加算区分

出典:厚生労働省 介護人材の処遇改善等(改定の方向性)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001173117.pdf

現状の3種類の加算は「介護職員等処遇改善加算」という名称の新加算に一本化され、その中で4段階(Ⅰ~Ⅳ)の加算区分を選択することになります。
この他に、新加算への移行準備期間である令和6年度のみ、経過措置区分としてⅤ(1)~(14)が設けられています。

新加算Ⅰが最も加算率が高く、現行の処遇改善加算Ⅰ・特定処遇改善加算Ⅰ・ベースアップ等支援加算を組み合わせた加算率となる見込みです。そこからⅡ、Ⅲと加算率が低くなり、新加算Ⅳは現行の処遇改善加算Ⅱとベースアップ等支援加算を組み合わせた加算率となっています。

4段階の加算区分の全てでベースアップ等支援加算(以後、ベア加算)に相当する加算率が組み込まれているため、これまでベア加算を取得していなかった事業所は、一本化に伴って加算額が増えることになります。増えた加算額(現行のベア加算に相当する額)については、その2/3以上を新たに月額賃金改善として配分する必要があるので、注意が必要です。

また、現行の処遇改善加算Ⅲは実質的に廃止されるため、これまで処遇改善加算Ⅲを取得していた事業所は令和7年度以降、現行の処遇改善加算Ⅰ又はⅡの要件を満たすようにキャリアパス要件の整備が必要となります。※令和6年度は経過措置区分を取得することで従前の加算率を維持することができます。

新加算率(追記)

新加算の加算率も公開されましたので、追記いたしました。「介護職員等処遇改善加算」と、参考までに「福祉・介護職員等処遇改善加算」の両方を掲載しております。

出典:厚生労働省 介護人材の処遇改善等(改定の方向性)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001200187.pdf
出典:令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001205321.pdf

「特定加算の職種グループごとの配分ルール」の撤廃

今回の3種類の加算一本化の背景の一つに、事務作業の煩雑さや制度の複雑さ、職種間賃金バランスの難しさ等による特定処遇改善加算の取得率の低さがありました。この課題に対応すべく、今回示された新加算の対応案では「介護職員への配分を基本とし、特に経験・技能のある職員に重点的に配分することとするが、事業所内で柔軟な配分を認める」と示されています。

これにより、新加算では職種グループごとの配分ルールが撤廃されることになり、全ての区分で事業所内での柔軟な配分が可能となります

これまでの、事業所内の全職員を職種や経験・技能の有無によってグループ分けし、さらにグループごとの平均配分比率や賃金改善額を調整する……という非常に手間が掛かってややこしい部分が解消されるため、現行の特定処遇改善加算を取得していた事業所にとっては事務負担が減ることはもちろんメリットですが、制度のややこしさから特定処遇改善加算の取得をためらっていた事業所がより上位の加算率の加算取得を目指すポイントになるのではないかと思います。

新加算Ⅳの1/2以上を月額賃金で配分が必要

現行加算ではベア加算以外の2種類の加算について、その支給方法(月額賃金へ上乗せして支給するか、賞与などの一時金で支給するか)は特に定められていませんでしたが、新加算では新加算Ⅳの加算額の1/2以上を月額賃金の改善に充てる必要があります

年収で見れば同じ金額であっても、求人情報で多くの人がチェックするのはやはり月収がいくらなのかという部分だと思いますので、賞与などの一時金ではなく月額賃金での改善を促すことで、介護職員の生活の安定・向上や、労働市場での介護職種の魅力増大につなげるのが狙いです。

注意点としては、これはあくまで改善方法の配分比率に関する変更であるという点です。そのため、既に手当や基本給UP等で支給している毎月の改善金額が新加算Ⅳの受給額よりも多い場合は、賃金改善の方法を改める必要はありません。

例として、新加算Ⅱ(現行の処遇改善加算Ⅰ・特定処遇改善加算Ⅱ・ベースアップ等支援加算を組み合わせた加算率)を取得する事業所の場合で見てみましょう。

図の右側を見て頂くとわかりやすいと思いますが、今回の改定で月額賃金で支給する必要があるのは新加算Ⅳ部分にあたる金額の1/2以上です。加算額全体の1/2以上ではありません。

また、図の左側のように、現在、加算受給額の一部を手当などの形で月額賃金で支給して賃金改善を行っている会社は、その賃金改善額の合計が新加算Ⅳの1/2以上の金額になっていれば、特に変更は必要ありません。

一方、これまでベア加算の2/3要件以外の加算受給額について、ほとんどあるいは全てを一時金で支給していた会社の場合は、今後、一時金での支給額から一部を月額賃金で支払うように賃金改善の方法を変更する必要が出てくるかと思います。

職場環境等要件の見直し

大きな変更点の最後が職場環境等要件の見直しです。生産性向上及び経営の協同化にかかる項目を中心に、より効果的な要件とする観点から見直しが行われ、既存の要件の具体化・明確化だけでなく、要件の追加も行われました。

新しい職場環境等要件の具体的な内容については下記をご確認ください。

出典:厚生労働省 介護人材の処遇改善等(改定の方向性)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001173117.pdf

特に、「生産性向上のための業務改善の取組」の要件は大きな変更が予定されている部分ですので、それぞれの要件をよく確認して事業所としてどの要件に取り組むか検討が必要です。

また、要件内容の変更だけでなく、取組自体の強化も行われています。

画像のタイトル部分のすぐ下に新加算Ⅲ・Ⅳと新加算Ⅰ・Ⅱでそれぞれいくつの要件に取り組む必要があるのか記載されていますが、これによると現行の処遇改善加算に相当する新加算Ⅲ・Ⅳであっても、区分ごとにそれぞれ1つ以上(生産性向上は2つ以上)取り組む必要があるようです。現行加算では、特定処遇改善加算を取得していない事業所は要件全体で1つ以上の取組を行っていればよかったので、こちらも大きな変化と言えます。

新加算への移行・経過措置

11月30日以前の分科会では、新旧加算を選択できる移行期間について検討すべきとの意見も出ていましたが、11月30日の分科会で公表された資料を見る限りでは、新旧加算の選択可能な移行期間は設けられず、令和6年度から新加算に移行するようです。

ただし、新加算への移行に伴う激変緩和のため、いくつかの経過措置が設けられます。

・職場環境等要件の見直し及び新設される「月額賃金改善(新加算Ⅳの1/2以上)」要件については、令和6年度中は適用を猶予する

・「ベア加算相当の2/3以上の新たな月額賃金改善」(現行のベア加算の要件)・「昇給の仕組みの整備」(現行の処遇加算Ⅰの要件)・「賃金体系の整備等及び研修の実施等」(現行の処遇加算Ⅱの要件)は、令和6年度中は準備期間として適用を猶予し、従前の加算率を維持できる

どちらも令和6年度中は適用を猶予されるという内容ですが、一つ目の経過措置については、新加算への移行に伴って「全事業所」に適用される要件が令和6年度中は緩和されることを示しています。

これに対して二つ目の経過措置は、これまでベア加算を取得していなかった事業所が新加算を取得する場合や、新加算のいずれのパターンにも該当しないような組み合わせで現行加算を取得している事業所が新加算を取得する場合に適用される猶予措置です。言い換えれば、今回の新加算の経過措置のために設けられた加算区分Ⅴに該当するような会社が、新加算に対応するために賃金規程等を整備するための猶予措置です。
そのため、もともと新加算に対応する組み合わせで現行加算を取得している事業所はほとんど関係のない内容だと言えます。

まとめ

11月30日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会の資料を基に、現時点で分かっている新加算「介護職員等処遇改善加算」の概要についてご説明いたしました。この資料だけでは読み取れない細かい疑問点も多々ありますので、それらは今後更に情報が明らかになっていくのを待ち、それでも足りない・分からない部分については各指定権者に直接確認を取りながら情報収集を進めてまいります。ベースアップ等支援加算が始まった時もそうでしたが、制度が大きく変わる際には混乱がつきものです。事業所がスムーズに正しく、そして無理のない形で運用できるように加算の取得をサポートしてまいります。

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